• ホーム
  • next_to
  • 海外派遣
  • next_to
  • 2003(平成15)年度
  • 2003(平成15)年度 海外派遣報告(ペルー、エクアドル、チリ)

    ペルー、エクアドル、チリ派遣調査報告 調査国の諸事情と考古学
    人類学調査における調査許可取得について
                     [報告者]大貫 良史(東京大学大学院総合文化研究科)


    1. はじめに

     平成15年10月から11月までの約2ヶ月間、南米ペルー、エクアドル、チリ三国において経済的、社会的諸事情と現地で考古学的、人類学的フィールド・ワークを行う際に必要な調査許可の取得方法についての情報収集を行ってきた。近年中南米地域を対象とした研究、フィールド・ワークは、以前にも増して多くの研究者の行うところとなってきているが、中南米地域独特の手続きの複雑さや政治、社会情勢の変化に伴う諸手続の変更などがあるため、現地調査を行おうとする研究者は常に最新の情報を入手しておくことが望ましい。そういったことから今回は、特に考古学分野、人類学分野においてフィールド・ワークを行う際に必要となる調査許可の申請手続きについて重点を置きながら、研究者が現地で調査を行う際に参考となるような情報の収集に努めた。また、同地域で行われた以前の調査報告で問題点として指摘された点についても、不十分ながらその後の経過などについて大使館や関係機関などでインタビューを行った。その際調査に協力してくださった関係各所の人々には、この場を借りてお礼申し上げたい。

     さて、最近のペルー、エクアドル、チリ三国における一般的な政治、経済、社会情勢は、比較的安定しているといえる。ペルーは例外的にフジモリ大統領に対する疑惑追及やその後のトレド大統領の公約不履行によるデモなどで多少政治的、社会的に不安定なところが見られるが、その他マクロ的経済指標では三国とも安定傾向にある。

     しかしながらマクロ指標の安定は、そのまま経済の好調さを意味するものではないし、依然として政治的、経済的、社会的歪みは存在していると言えよう。こうした現象は研究者にとってはむしろ格好のテーマとなりうるのであろうが、現地調査に際しては研究者自身の身に危険が及ぶ可能性があることを肝に命じておかなければならない。現地で調査を行う場合、慣れた者でもトラブルに巻き込まれることがある。南米という場所柄、安全には十分に気を遣っていただきたい。

     以上を踏まえた上で、ペルー、エクアドル、チリ各国における調査報告を以下に記す。

    目次へ戻る


    2. ペルーについて

    ●概要

     2000年のフジモリ前大統領の罷免からトレド大統領誕生、そして現在に至るまで一連の政治騒動は未だ終結していない。トレド大統領が就任前に公約とした貧困撲滅及び雇用創出も思うように進んでおらず、これに不満を持つ国民によるデモなどの抗議活動が行われ、政府はペルー全土を対象とした非常事態宣言を発令する状況に追い込まれるなど、社会的混乱が夏前に一時見受けられた。

     それに対して経済的には、フジモリ期に推し進められた鉱業部門開発が実り、GDP成長率は5.2パーセントを達成、ラ米の中でもマクロ指標の最も安定した国の一つとなっている。しかしながら、ミクロ的にはまだまだ問題点も多く、特に貧困問題は未だ大きな課題となって残っている。特に国民の大部分を占めるのは農民であるにもかかわらず、アスパラガスなど海岸部で行われている輸出作物をのぞいて、農村人口の大部分を占める山岳部では輸出作物の生産が非常に少ない。総輸出に占める農産物の割合は2.8パーセントにすぎず、山岳部における農業経済のレベルアップは急務である。それはまた地方における貧困問題の解決にもつながるだろう。

     一時期のテロ活動はフジモリ期に終息するも、最近になってセンデロ・ルミノソによると思われる誘拐事件が再び発生している。しかしながら以前なら確実に殺害されていただろうと言われているように、テロリストの手法も変化してきている。これはかつての強硬な手口では、もはや誰の支持も得られないと考えたテロリスト側心理の変化の現われであり、ペルー社会の変化でもあろう。このようなこともあるが全般的な日常生活においては、ここ数年大きな混乱は見られず、比較的過ごしやすくなっているのではないかというのが印象であった。

     ペルーは以前から考古学、人類学関係の研究者による調査が多く行われている地域であり、在外公館との連絡も円滑に行われているようである。しかしながら以前の小野幹雄先生の調査で指摘されていた、調査者が便宜供与依頼を出さないという問題については、現在でもほとんどの研究者は行っていないようであった。ただこれに関しては、外務省側にも多少不明確な点があるようで、現地へ行った際に調査を行う旨を伝えてくれれば通関手続きくらいはいつでも手伝うとのことであった。


    ●調査許可について

     考古学、人類学的調査を行う際に必要となる調査許可の申請先は、文化庁(Instituto Nacional de Cultura)である。調査許可申請について以下、調査 規定を掲載する。

    INSTITUTO NACIONAL DE CULTURA
    Reglamento de investigaciones arqueologicas
    Resolucion Suprema No.994-2000-ED
    (El Peruano, 25 de enero del 2000)


    第4章 考古学調査計画に対する許可について

     
    第27条 調査許可を申請する場合、それ以前に行われた調査がある場合はその報告書を提出してからでなければならない。また、考古学的調査計画は、提出された報告書が考古学・人類学・歴史学博物館(Museo Nacional de Arqueologia, Antropologia e Historia del Peru)の図書室で受理されたことが証明された場合、更新することができる。調査計画の更新は、管轄である文化庁(INC)の考古学局(Direccion General de Patrimonio Arqueologico)の承認なしでは無効である。
    第28条 ペルーで考古学調査計画を指揮することができるのは、以下の者である。
    1. 国内もしくは国外の考古学の専門的研究機関に所属する者で、調査の指揮は、上記の一人もしくはそれ以上の専門家によるものでなければならない。
    2. ペルー人、外国人いずれの場合でも考古学分野の学位を持つ者で、ペルー考古学者登録に登録している者。
    3. 文化庁所属機関の考古学者
    第29条 考古学的調査計画を申請することができる考古学者は
    1. 個人。
    2. 研究機関のメンバー。
    3. 研究機関の援助を受けている者。
    第30条 外国人考古学者による調査計画は、ペルー国籍ならびにペルー考古学者登録に登録しているペルー人考古学者を副代表として一人含まなければならない。この場合このペルー人は他の調査との掛け持ちはできない。また、考古学局の査察官は副代表になることができない。この副代表は必ず計画の遂行全体に参画していなければならない。
    第31条 考古学調査の許可は、最大で一年間有効である。さらに終了時に更新申請を行うことができる。更新申請は文化庁長官に調査経過報告を添えて行わねばならない
    第32条 承認された計画の作業を延期するためには、考古学局に対して延期の申請をしなければならない。ただし、この延期は45日間で一度しかできない。延長申請には、調査計画、延長にかかる予算を明記しなければならない。
    第33条 学士号しか有さない者が調査を申請する場合は、ペルー考古学者登録に登録している考古学者の推薦状を付加しなければならない。ただしこの調査は、遺物の採集は認められず、表面調査および博物館学的研究のためのみである。
    第34条 他の関連する学問分野の専門家、もしくは考古学を補足する分野の専門家は、研究代表者の責任の下で調査に加わることができる。これらの専門家の役割については、計画書、報告書の中で特に言及されなければならない。
    第35条 ペルー国内における大学で、考古学の学位を授与している大学は、学生のための野外実習を申請することができる。このためには、専門的考古学者の責任の下、調査計画を申請しなければならず、同時にその考古学者は代表者にならなければならないでなければならない。調査計画はそれぞれの学部、学科を通して申請されなければならない。
    第36条 全ての考古学調査許可申請は、最後に文化庁の許可を受けたときの調査のデータを同時に提出しなければならず、次のことを明記した申請書を四部提出すること
    1. 調査計画書。
    2. 申請者の履歴書、ペルー考古学者登録番号。
    3. 外国人の場合、大使館の公式紹介状。
    第37条 第7条aの申請書は次の点に言及しなければならない。
    1. 考古学調査の目的。
    2. 作業計画。
    3. 調査の進展に応じた方法および理化学的応用技術。
    4. 装備と予算。
    5. 成果の公開について。
    第38条 考古学調査の目的に関して、以下のことを明確に述べなければならない。
    1. 調査対象の地理的記述。発掘を行う場合は、その範囲をできる限り正確に示す。
    2. 全ての調査計画は、対象地域の2000分の1から25万分の1の地図を付加すること。発掘の場合は、対象地域の一般的平面図に調査地点を示すこと。この場合縮尺は100分の1から2000分の1までとする。
    3. 広範囲に及ぶ表面調査で小規模な発掘を含む場合や複数の発掘を伴う調査の場合、実現性、文化的必要性、特徴と技術、方法についての根拠を述べなければならない。
    4. 調査目的の要約。
    5. それ以前の調査における問題点などの簡潔な要約と基本的文献目録を添付すること。
    第39条 作業計画に関しては次のことを明記すること。
    1. 参加する各メンバーの役割、学位など、各自の情報について。
    2. 作業段階について現地調査、分析、報告書の準備など各段階に必要な時間を計算し、日程表の形式で示す。
    3. 計画の実行性に関しての技術的、専門的根拠について。
    4. 遺物の登録、分析、収蔵に関わる装備について。
    5. 発掘の場合、保存と保護のための計画について。最低でも埋め戻し、遺跡の範囲画定などについて。
    第40条 方法と応用技術について、次のことを明記すること。
    1. フィールド・ワークに用いられる技術および方法について。
      • 記録方法、図面、写真、その他カードも含める。
      • 一般調査の場合、調査地域の区分け方法、および遺跡の位置について。
      • 発掘の場合、考古学的遺物に対する命名方法を示す。一般調査の場合、調査地域の同定方法および遺跡、孤立した遺物の命名方法
      • 遺跡の命名方法、遺物の命名方法を示す。
      • 発掘、測量の技術、遺物の収集方法を示す。
    2. 研究室での分析方法、技術について。
      • 収集した遺物の分析方法。
      • データ分析とデータの統合
      • 遺物リスト、保管、梱包方法について
      • 報告書の作成手順
    3. 出土品、遺跡、建築の保存、保護の技術的記述。人骨の場合、フィールド、研究室双方における技術を示す。
    第41条 装備と予算に関しては次のことを明記しなければならない。
    1. 文化庁に対して行う手続きにかかる費用も含めた全体の費用を計算し、明細を算出する。明細は、人件費、装備、一般設備、作業室の設備、報告書作成にかかる費用も含む。
    2. 研究機関、組織の助成金などの経済的、物質的に調査を支援するもの。
    3. 調査に使用する装備など。
    第42条 調査成果の普及に関して、次のことを明記すること。
    1. 調査成果の普及に関する計画。
    2. 報告書、出版物の文化庁以外の寄贈先。
    3. 収集、登録した遺物の最終的な保管場所についての提言。

    ●関係省庁および研究機関連絡先について

    調査手続きの窓口となる関係省庁および研究協力を依頼する大学などの住所は以下の通りである。

    Pontificia Universidad Catolica del Peru
    Av. Universitaria cdra. 18, San Miguel
    Lima-32
    Telf. (511) 4602870

    Instituto Nacional de Cultura
    Av. Javier Prado Este 2465, San Borja Lima 41
    Telefono 476 9933
    Fax 4769880

    Museo Nacional de Arqueologia, Antropologia e Historia del Peru
    Plaza Bolivar, Pueblo Libre, Lima 21
    Telefonos (01) 463 5070, 463 2009

    目次へ戻る


    3. エクアドルについて

    ●概要

     エクアドルでは99年マワ政権期に通貨スクレのドル化が行われた。当初この影響は大きく、2000年には物価上昇率が91パーセントに達したが、現在このドル化に伴う混乱は終息へ向かっているようである。ただドル化以降、現在の物価水準は欧米諸国に比べてもひけをとらないほど高くなっており、滞在費等の検討には注意が必要である。

     政治情勢はノボア前大統領以降、比較的安定しておりグティエレス現大統領に引き継がれている。ノボア政権期に行われた国際機関との融資に関する合意や経済政策により、一定の経済的安定を達成するも、ドル化に伴う国内価格の上昇により輸出品の国際競争力が失われ、反面輸入が増加した。しかしながら石油の国際価格上昇により経済的な混乱は最小限に抑えられている。こうした状況の中誕生したグティエレス政権は、汚職や貧困撲滅を公約に掲げているがその成果はまだあがっていない。さらに先住民系政党との連立崩壊やイラク問題でアメリカ支持を表明したため、当初の支持率60パーセントは現在では10パーセントから20パーセントの低水準に落ち込んでおり、大統領の支持基盤 は弱くなってきている。また、バナナ業者による暴動や先住民の地位向上の圧力があり、2003年に起きたボリビアの一連の騒動がいつ飛び火するかわからないといった不安もあった。さらにこうした社会情勢の不安定化によって国際的信用を失うことになれば、IMFをはじめとする国際機関からの融資を失いかけず、エクアドルとしては重大な懸案事項である。

     治安情勢は、ここ数年で確実に悪化してきている。特に首都キトでは、今まで治安の悪さが指摘されてきたグアヤキルともはや変わらないほどの治安状況になってきており、現に筆者が滞在中にも、目の前で拳銃を使った強盗事件が発生した。またエクアドル北部のエスメラルダス県、カルチ県、スクンビオス県などはコロンビア系のゲリラ組織が勢力を広げており、これに伴いゲリラ式犯罪が増加しているため調査に関わる際には十分注意するか、場合によってはこれらの地域でのフィールド・ワークは延期する等の対処が必要である。エクアドル北東部のジャングル地域ではマオラニー族の抗争がしばしば行われており、スペイン語が通じないこともあるため調査の際には、マオラニー族の案内人を伴った方がよいとのことであった。

     エクアドルはペルーなどと比べると調査を行う研究者の数がまだ少ないため、研究者と大使館など在外公館との連絡は円滑とは言い難いようである。在外公館としては、どこでどのような調査を行うかといった基本的な情報について、現地で必ず一声かけてほしいとのことであった。筆者が行った際には、在外公館の職員は現地でフィールド・ワークを行っている研究者をほとんど知らなかったし、実際エクアドルの治安情勢などを考慮すると不測の事態に巻き込まれる可能性は十分にあるため、調査を行う者は滞在の日程等の報告を是非忘れずに行ってほしい。


    ●調査許可について

     エクアドルでの考古学、人類学的調査を管轄するのは、文化庁(Instituto Nacional de Patrimonio Cultural)である。以下、調査許可取得に関する規定を記す。

    INSTITUTO NACIONAL DE PATRIMONIO CULTURAL DEL ECUADOR
    RESUELVE
    DICTAR EL REGLAMENTO PARA LA “CONCESION DE PERMISOS DE INVESTIGACION ARQUEOLOGICA TERRESTRE”, Contenido en las siguientes clauslas.


    第一章 調査について

       
    第1条 エクアドル国内において調査を実施しようとする自然人、法人で、調査許可申請をする者は、次の者でなければならない。
    1. 考古学の専門家。
    2. 考古学の関連分野での専門家。
    3. 考古学もしくは関連分野での学士号保持者で、学位論文を作成中の者。
      ただしその場合、a.で規定される専門家によって指導を受けていること
    第2条 考古学に関連する分野の専門家で、次のタイトルを持つ者
    1. 先スペイン期人類学、民族学。
    2. 先スペイン期、歴史時代建築学。
    3. 地理学、歴史学。
    4. 古生物学。
    第3条 建築学者で先スペイン期、歴史時代遺跡の修復専門家の場合、最低3年以上の経験を持つ考古学者の指導の下でなければならない。
    第4条 地理学、歴史学で考古学分野の調査を行いたい場合は、最低3年以上の経験を持つ考古学者の助言を得なければならない。

    第二章 許可について

    第5条 考古学的調査を行おうとする全てのエクアドル人または外国人は、文化財法の一般規定と本規定に従わなければならない。
    第6条 調査許可を得るためには文化庁歴史・考古局(DENAHI-INPC)に対して考古学・人類学者登録を行わなければならない。
    第7条 考古学分野に関連するいかなる調査もこれを実施するためには、文化庁の許可を得なければならない。
    第8条 文化庁は、エクアドル人、外国人にかかわらず研究機関によって支援されかつ学術的調査を計画する調査者に対して、許可を与えるものとする。
    第9条 歴史・考古学局は、調査計画と申請内容を審査し、15日以内にその可否の決定を下し、文化庁長官が許可する。
    第10条 外国人が考古学的調査を行う場合は、博士かそれと同等の専門家によって指揮される場合のみであり、責任者は少なくとも同類の調査経験が5年はあることが必要。同様の用件でエクアドル人の場合は、5年以上の経験を必要とする。
    第11条 外国人調査者は、文化庁経理課に歴史・考古局の考古学者が必要に応じて査察を行うための所定の日当と交通費をあらかじめ納めていなければならない。もし査察が行われなかった場合は、返金される。
    第12条 許可の有効期間は一年間で、一定の学術的水準を保っていると判断された場合、さらに更新を行うことができる。
    第13条 前条の期間内で調査を完了できない場合は、調査者は文化庁に延長の願い出を出さなければならない。その場合は当初の期日の終了する15日前までに提出しなくてはならない。
    第14条 文化庁は与えられた許可を次のような場合取り消すことができる。
    1. 文化財法一般規定、本規定が定める条項に対する違反があった場合。
    2. 文化庁との協定によって規定されている義務を果たさない場合。
    3. 経過報告が許可された方法、理論的枠組みと一致しない場合。
    4. 歴史・考古局もしくは地方支局が行う定期的な評価報告が調査者の出す経過報告と一致しない場合。
    第15条 前条の理由で許可を取り消された調査者は、文化庁もしくはその支局と調整会議を行うことを願い出ることができる。抗議が認められた場合取り消し措置は無効となる。

    第三章 許可取得のための必要事項

    第16条 考古学的発掘、表面調査の申請には、調査者は文化庁の長官に対して次の内容を明記しなければならない。
    1. 調査計画
      a1.イントロダクション。
      a2. 理論的枠組み。
      a3. 対象地域の境界画定。
      a4. 目的。
      a5. 仮説。
      a6. 調査の方法論と技術。
      a7. 作業日程。
      a8. 予算。
      a9. 装備。
      a10. 文献目録。
      a11. IGM(Instituto Geografico Militar)作製の地図。
    2. 研究代表者、研究協力者の履歴書と所属する研究機関の身分証明書。
    3. 学位取得予定者の場合は、指導教官との共同責任において申請できる。
    4. 調査者が外国人の場合、その国のしかるべき機関が発行する出資証明書。
    5. 調査計画の予算には、文化庁が指名する会計検査官へ支払われる日当、謝金を組み込んでおかねばならない。
    6. 調査に参加するエクアドル人専門家のリスト。
    7. 技術的協力を行う要員のリスト
    8. 申請が受理された後、調査者は労働省から与えられる労働許可と調査者のビザのコピーを文化庁から求められることがある。
    第17条 外国人による調査の場合、第16条b.c.d.h.に関して、大使館の公式証明を必要とする。
    第18条 文化庁から発掘の許可を得るため調査者は、遺跡周辺の考古学的一般調査を行わなければならない。しかしすでに行われている場合はこの限りではない。
    第19条 全ての必要事項が完了したら、研究代表者は文化庁との協定書に署名しなければならない。この協定書には、遺物の保管先、遺跡保護のための対策等に関する義務が規定されている。

    第四章 調査と成果について

    第20条 文化庁は歴史・考古局の報告やその地方支局との協力の下に、エクアドルの歴史に重要性があると考えた場合、優先的調査地域を設定することがある。その場合、調査者に対して調査地域の変更を提案することができる。
    第21条 表面調査、発掘を行うため、各自の作業規則を使用すると同時に文化庁が作成する作業規則にも従わなければならない。発掘に関する作業規則は以下の通りである。
    1. 発掘区画
    2. 遺構
    3. 埋蔵物。
    4. 建造物。
    5. 出土品リスト。
    6. 写真記録。
    7. 調査日誌。
    調査者は、必要に応じて技術的助言を歴史・考古局もしくは地方支局に求めることができる。
    第22条 全ての調査は文化庁かその地方支局の定期的な査察を受け入れなくてはならない。
    第23条 3ヶ月ごとに調査者は歴史・考古局か地方支局に経過報告書を提出しなければならない。またフィールド・ワーク終了時に歴史・考古局に許可の満了日から1ヶ月以内に予備報告書を提出し、6ヶ月以内に最終的な報告書を提出しなければならない。調査が長期にわたる場合(2年以上)、経過報告を6ヶ月後と、予備報告を一年後に提出しなければならない。最終報告書提出までの期日は、文化庁によって決定される。
    第24条 経過報告も含む全ての報告書は、1部スペイン語、1部オリジナル言語のコピーを提出しなければならない。
    第25条 全ての経過報告書、予備報告は、経験的データ、ドキュメント、フィールドでの方法などが強調される技術的な内容でなければならない。最終報告書では反対にデータの解釈と学術的結論が求められる。
    第26条 予備報告では、調査責任者は保存と保護に関して講じた処置について述べなければならない。
    第27条 写真資料、映像資料がある場合、それらの編集が完了したら、コピーを歴史・考古局に提出しなければならない。これに関しては第五章に従うこと。
    第28条 歴史・考古局は、エクアドル人および外国人の調査者に対して、調査結果についてのシンポジウム、コロキアム、セミナーなどの講演を依頼することができる。

    第五章 出土遺物の帰属先について

    第29条 エクアドル人および外国人調査者は、調査終了時に出土遺物の目録および写真、映像資料のリストを提出する。
    第30条 発掘、表面調査またはその他あらゆる種類で収集した資料は、文化財登録局の職員によって適切な目録が作成される。
    第31条 調査を援助した国内の機関は、調査責任者との合意の上、文化庁に対して展示用文化財の保管許可を申請できる。
    第32条 非展示用文化財については、調査者が非展示用として登録し分類した後、次に従って特徴あるものと特徴のないものとに分類する。
    1. 特徴あるものとされるもの、サンプルとなりうるもの。その帰属は文化庁が決定する。
    2. 特徴ないものとされるものは、調査者の研究所、支援機関で将来のために保管すること。その基準は文化財法一般規定による。
    第33条 文化庁が所有するいかなる文化財も国外に持ち出すことはできない。ただし文化財法一般規定の特定する場合を除く。
    第34条 海外での分析に必要とされるサンプル、破片などは以下のようなものとする。
    1. 破片:土器、貝殻製品、骨製品、石製品、木製品、織物、金属製品
    2. サンプル :炭化植物、化石植物、花粉、種子、土壌
    第35条 調査者は、前条にあるような破片、サンプルの一時的な持ち出しに際して、文化庁の許可の他に文化財登録局の諸要件を満たした上で申請書を提出しなければならない。
    第36条 研究目的、展示目的の考古学的写真、映像資料の国外持ち出しは、SENACの政令に則ったものでなければならない。
    第37条 前条で述べられたもので、かつ商業目的で作成されたものは第36条が適用される。

    第六章 公表について

    第38条 調査成果が発表された場合、調査者はオリジナル言語で5部のコピーを提出しなければならない。しかしながらこれによってスペイン語による最終報告書の提出義務は免除されるものではない。
    第39条 文化庁は、調査者の発見と報告に関する所有権、著作権を保証する。報告書は三年間非公開とされ、その後は歴史・考古局にて閲覧可能となり、また出版もあり得る。
    第40条 文化庁が許可した調査に関連する研究発表、あるいは調査期間内に取得した情報を利用した研究発表に関しては、30部を提出しなければならない。

    第七章 罰則

    第41条 調査者が念書にある義務を果たさない場合、または文化庁との協定を遵守しない場合、直ちに許可は取り消される。また、そうした活動が継続する場合には文化庁はこれを違法と見なす。
    第42条 土器、石、骨、その他文化財を許可なく持ち出そうとした場合は、エクアドル国内で行われている全ての考古学調査許可は取り消される。

    ●調査手続きに関する関係各所の連絡先について

    Instituto Nacional de Patrimonio Cultural de Ecuador
    La circasiana Av. Colon Oe 1-93 y Av. 10 de agosto
    Telefono: (593) 02 2543257

    Pontificia Universidad Catolica del Ecuador
    12 de Octubre, entre Patria y Veintimilla
    Telefono: (593) 02 2991700 / 2565627

    目次へ戻る


    4. チリについて

    ●概要

     チリは三国間のみならず、ラテン・アメリカの中でも最も安定した国の一つである。特に経済的には、もともと資源、産業の乏しかった地域という歴史を持つため、周辺国に対する競争力をいかに保つかという努力をし続けてきた。このことが「まじめな」国民性を生んだといえよう。政治的には1970年代、1980年代のピノチェトに始まる長い軍政を経験しているが、1990年の民政移管後は大きな混乱もなく現在に至っている。

     経済的には、天然資源である銅輸出が主力であるが、他にも水産業、製造業など多角化がなされている。特に現在のラゴス政権下では、資源開発中心の経済構造からの脱却が推進されている。日本企業の進出も盛んであり、水産業、林業、鉱業など延べ60社あまりが進出している。貿易先としても日本は米国と並ぶ主要貿易相手国であり、経済的相互関係は非常に重要なものとなっている。しかしながらチリの経済構造は総じて輸出依存度が高く、米国経済の低迷、国際銅価格の停滞により2002年のGDP成長率は2.1パーセントにとどまっている。さらに98年以降のアジア危機以来国内需要は伸び悩んでおり、これに伴い失業率も高水準で推移しているため(9パーセント前後)、失業率、国内消費の回復、また自由貿易協定などの外交が当面の政策課題となっている。

     チリは経済的、社会的に安定しており、首都サンティアゴはかなりの都会であるが、治安状況は非序によい。警察も信頼でき、今回調査を行った国の中で最も安心して町を歩けた。ただ、北部のアリカ、イキケに行った際に車を夜間路上駐車することは危険であったりするので、やはり注意すべきことは同じである。また、地方が中央政府を信用しないなどの風潮もなく、地方で学術的な調査を行う際に支障になるような摩擦も研究者のトラブルも今のところほとんどないという。

     チリの大学は、ペルー、エクアドルとは違い国立大学が比較的よく機能している。私立ではやはりカトリカ大学の評価が高い。チリは中南米の中で初等、中等教育が最も充実している国であり、そのためか大学における研究活動も盛んである。ただ今のところ日本の研究者との人的交流はまだまだ少なく、共同研究をはじめとする研究交流の要望の声をよく聞いた。というのも研究意欲も高く人材も豊富ながら、やはり学術研究のための資金が不足しているため、海外のファンドで調査研究をしたいとの思惑があるようだ。外務省を通じて文化無償等の文化的援助はよく行われており、それに対しての評価も高いが、やはりラテン・アメリカ世界では人的交流が最も評価されるポイントである。今後は研究者同士の交流がいっそう盛んとなることを期待したい。


    ●調査許可について

     チリでの考古学、人類学的調査を管轄するのは、文部省文化財審議会(Ministerio de Educacion Consejo de Monumentos Nacionales)である。以下、調査許可取得に関する規定を記す。

    Ley No.17.288 de Monumentos Nacionales y Normas Relacionadas 2003
    Republica de Chile
    Ministerio de Educacion
    Consejo de Monumentos Nacionales
    Decreto Supremo No. 484, de 1990, del Ministerio de Educacion: Reglamento sobre Ecavaciones y/o Prospecciones Arqueologicas, Antropologicas y Paleontologicas


    第1条 考古学的、人類学的、古生物学的一般調査、および発掘は、文化審議会の許可手続きや発見物の収蔵先とともに、法律第17.288号と本規則に則るもものとする。
    第2条 許可を要するものは以下の通り
    一般調査:一カ所もしくはそれ以上の考古学的、人類学的、古生物学的遺跡を発見するための一般調査。
    発掘:考古学的、人類学的、古生物学的遺跡に手を加えるあらゆる作業。
    特別遺跡の発掘:他に類がない学術情報を多く含んでいる、文化財としての価値が高いなどの基準に基づいて、文化財審議会が指定した遺跡の発掘。
    第3条 一般調査を行う範囲は、限定された地理的範囲、例えば一つの狭谷や谷間などでなければならない。通常あまりに広い範囲における一般調査は認められない。
    第4条 発掘の許可は、原則一カ所のみ。しかし例外的に複数もあり得る。ただし多すぎないこと。研究者もしくはグループが一カ所以上の発掘許可を求める場合は、その根拠を説明しなければならない。
    第5条 試掘を含む一般調査、遺物の収集を含む表面調査、考古学的、人類学的、古生物学的発掘調査全ては、国有地、私有地に関係なく文化財審議会の許可を得なければならない。
    第6条 許可が認められるのは
    チリ人研究者で人類学、考古学、古生物学のふさわしい調査計画を持ち、しかるべき機関の支持を得ている者。
    外国人研究者でしかるべき学術機関に所属し、チリの大学もしくは、チリ国立研究機関と共同して仕事を行う者。
    第7条 調査許可は、調査、発掘が開始される少なくとも90日前までに申請されなければならない。申請には、次のことを明記しなければならない。
    研究代表者の氏名。
    研究代表者の履歴書
    研究協力者の氏名
    研究費の出所
    目的と方法
    対象となる地域、遺跡
    作業計画
    資料を保存し、研究を行う場所および最終帰属先に関する提言。
    上記を証明する、協力機関の証明書。
    保存対策(必要であれば)。
    第8条 申請が外国人研究者による場合、さらに以下が必要となる。
    申請が外国人研究者による場合、さらに以下が必要となる。
    研究者が外国の学術研究機関に所属していることを証明するもの。
    調査へのチリ人顧問の参加に対する承諾とその氏名、またそれは専門的考古学、人類学、古生物学者でなければならない。
    協力、援助を行うチリ大学関係もしくは国立研究機関との協定書。この場合、チリ側関係機関は文化財審議会に対して、調査計画の実行と出土品と最終収蔵先に関する責任を負う。
    第9条 特別遺跡の場合は、文化財審議会が特に認める者にのみ許可される。
    第10条 文化財審議会は、申請を受けてから60日以内に許可の可否を決定する。許可が否認された場合もしくは申請の一部に対してしか許可が認められなかった場合、否認の報告から10日以内に再検討の申し出を行うことができる。その場合60日以内にその可否を決定する。
    第11条 許可は5年間有効であり、同期間の更新を行うことができる。更新申請を行う場合、成果を学術的メディアによって発表したことを研究者は証明しなければならない。
    第12条 別の調査グループによる同地域の一般調査は、先行調査者の同意があるときのみ行うことができる。ただし、特別必要が認められる場合や先行者があらかじめ同意している場合は、許可を与えることがある。
    第13条 調査者は、最後に報告書を提出した時点から5年間、その場所の優先的調査権を持つ。ただしこの権利を書面で放棄した場合を除く。
    第14条 文化財審議会はつきの場合許可を取り消すことができる。 考古学的、人類学的、古生物学的遺産に対する保存規定を遵守しない場合
    許可が承認される前に、調査を開始した場合
    文化財審議会が承認する代理人なしで、研究代表者、もしくは責任者が1年以上チリ国内を離れる場合
    許可を受けてから2年以内に必要な報告書を提出しない場合
    支援期間が支援を取りやめたことが明らかとなった場合
    遺物、出土品を不適切に処理したことが明らかとなった場合。
    第15条 調査許可を受けて、調査を行っている研究者は、2年後にその成果の報告書を提出しなければならない。もし、この報告を怠ると自動的に許可は取り消される。また、許可の取り消しを受けた者は、この義務を果たすまでいかなる新規の申請もすることができない。
    第16条 報告書には以下の項目を含むこと。
    発掘場所、一般調査の平面図
    発掘、表面採取を実施した区域の詳細、および証拠として残してきた区域の詳細を示さなければならない。
    実施した作業と方法に関する簡潔な要約
    その遺跡の文化的内容の要約と収集した遺物のリスト
    遺跡の一部または全体の保存計画、必要な場合、保存、整備に関する考古学的展望を含む
    出版物もしくは原稿を付加する。
    第17条 報告書は8年間非公開にされる。この期間後は、文化財審議会文書館で自由に閲覧することができる。また10年を過ぎると出版することがある。
    第18条 許可が有効な間、調査書は文化財審議会が求める全ての情報を提供する義務がある。また文化財審議会は直接、間接的に査察を行うことができる。同様に文化財審議会は表面調査、あるいは発掘場所に不明確な点がある場合、査察官による検証を行うことができる。
    第19条 責任者が1年以上チリを離れるので、代理人を設定する場合は、そのことを文化財審議会に通知しなければならない。
    第20条 損失するおそれがある考古学的、人類学的、古生物学的データ、資料がある場合、緊急調査を行う場合がある。文化財審議会によって認められた博物館の館長やチリ考古学会のメンバーまたはこれに相当する者には、緊急調査の許可が与えられる。また、出土品や遺物の最終的保管場所を可能な限り早く報告しなければならない。緊急調査で重大な発見であると推測されるような場合は、緊急に文化財審議会に報告しなければならない。
    第21条 孝古学的、人類学的、古生物学的調査、発掘に由来する遺物は全て国家に帰属する。その所有は、保存、展示、研究のための利用が容易にできることを保証する研究機関に対して文化財審議会が決定する。全ての場合において、永続的な保存に関する十分な準備を持つ、地域の博物館が優先される。
    第22条 チリ国立自然史博物館は、人間科学コレクションの中心である。外国人、チリ人にかかわらず、発掘によって得られた遺物のタイプ標本の代表的セットを文化財審議会はチリ国立自然史博物館に収めなければならない。
    第23条 チリ国内で発掘、表面調査を行ういかなる自然人、法人は、いかなる目的であれ発見された考古学的、人類学的、古生物学的遺跡、遺物を直ちに地方政府に通報しなければならない。さらに地方政府は、文化財審議会が引き継ぐまでの間、警備の者を派遣し、監視する責任を持つ。出土品、遺物は、第21条の規定事項の決定後、所定の位置へ配分される。

    ●調査手続きに関する関係各所の連絡先について

    Consejo de Monumentos Nacionales Licenciada en Historia
    Av. Vicuna Mackenna 84, Providencia
    Santiago - Chile
    Fonos: (56) (2) 665 1516 - 665 1518
    Fax: 665 1521

    Pontificia Universidad Catolica de Chile
    Alameda Bernardo O'Higgins 340 - Mesa Central
    Fonos: (56-2) 3542000 ? Santiago

    Universidad de Chile
    Facultad de Ciencias Sociales
    Capitan Ignacio Carrera Pinto 1045.
    Nunoa. Santiago. Chile.
    Telefono : (56-2) 678-7706
    Fax: 856-2) 272-7635

    目次へ戻る


    5. おわりに

     今回は南米でもアンデス地域といわれる国が調査の対象となったが、経済的格差はあるが文化的、社会的によく似ているのがおもしろい。特にチリでは首都サンティアゴは一見してペルー、エクアドルとは別世界であるのに対して、北部へ行くとペルーと見間違うほどに人も町並みもまた食べ物もよく似ている。

     前回の調査で指摘されていた在外公館への連絡について、現地へ着いた際にどこで、どのような調査をどのくらいの期間行うのかといった基本的な内容でかまわないので教えてほしいというのが現地担当者の共通の意見であった。これは、地方でフィールド・ワークを行う場合など、まだまだ予期しないトラブルに巻き込まれる可能性の高い地域だけに研究者は在外公館との連絡を保つ努力をするべきである。地方で現地の人々との間のトラブルや犯罪に巻き込まれた場合もそうだが、社会情勢の急変などの混乱が起こらないとも限らないので、緊急時に連絡が円滑に行えるよう配慮しなければならない。現にボリビアでの一連の騒動では、かなりの混乱があったように研究者の身に危険が及ぶような状況も十分あり得るのである。

     現地で研究協力の依頼や受け入れ機関となる大学は、私立系の大学が国立よりもよいというのが比較的共通していた。ペルーではサン・マルコス大学がかつてデモばかりで授業をほとんど行っていなかったという時期があったが、エクアドルでは現在も似たような状況が続いているという。ただチリ、エクアドルは大学構内へは自由に出入りできるが、ペルーでは一般的に出入り口で身分証や行き先のチェックを受けるのが普通であるので、現地で大学を訪れる際には注意が必要である。

     手続きに関して、現地に協力者がいた方が何かと便利である。特にラテン・アメリカでは人的コネで臨機応変に事が進むことがよくある。これは手続き上の問題だけではなく、人的交流という点でも重要なことである。前にも書いたがラテン・アメリカでは何よりも文化的人的交流が非常に評価される。このことからも調査のしっぱなしや現地での研究交流を抜きにした調査は、日本人の評判を落とすだけでなく今後の調査活動に影響を与える事にもなりかねない。調査を行う研究者には、調査以外の面でも是非気を遣っていただきたいと思う。

     最後になるが、現地で調査に協力して下さった方々に重ねて謝意を表したい。

    (2004年3月18日脱稿)

    目次へ戻る


    Last updated: 6 Sep, 2004
    Copyright(C)2004, OONUKI Yoshifumi, All Rights Reserved.


    戻る



    【総括班事務局から】
    各機関の電話番号・FAX番号については、調査時点のものなので、連絡をとる場合は現地へ確認後、お願いします。