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  • VII サハラ以南アフリカ
  • VII サハラ以南アフリカ

    座長曽我 亨(弘前大学人文社会科学部)
    河合 香吏(AA研)
    情報提供講師安田 章人(九州大学基幹教育院)
    タイトル「カメルーン北部におけるスポーツハンティング観光と地域社会の関係」

     サハラ以南アフリカ分科会では、情報提供講師の安田章人氏(九州大学基幹教育院)が、「カメルーン北部におけるスポーツハンティング観光と地域社会の関係」と題する報告を行った。

     安田氏の報告は大きく前半と後半に分かれ、前半では、2004年から2014年までに遂行した調査に基づき、カメルーン北部におけるスポーツハンティングと地域社会との関係を論じた。スポーツハンティングについては、野生動物保全政策と地域発展に寄与するというユートピア的な言説がしばしば展開される。こうした言説が調査地の住民にも共有されているのか、更には、スポーツハンティングが地域社会にどのような影響を及ぼしているのかといった問いの実証的な解明が必要であることを議論の起点とし、安田氏は、スポーツハンティングが地域社会にもたらす「光」(スポーツハンティングが地域社会に創出する雇用機会、スポーツハンティングによって生じる地域住民への利益分配など)と「影」(地域住民による狩猟の実質的な禁止、密猟を行った地域住民に対する厳しい処罰〔逮捕・罰金〕、狩猟区の創設に伴う地域住民の強制移住など)の分析から、地域住民への利益分配のみが優先されてしまい、地域住民と野生動物との多元的な関わりや彼らの生活実践の基盤が毀損されている点、更には彼らの主体性が蔑ろにされている点を明らかにした。更に安田氏は、スポーツハンティングに関わる観光事業者や政府関係者の発言を提示し、彼らが地域住民を持続可能で科学的な資源管理を行うことができない存在と「断罪」し、地域住民には経済的便益さえ与えておけばよいと考えている点を指摘した。そして、こうした断罪がなされる原因として、観光事業者や政府関係者による「持続可能性」の概念と地域住民のニーズの固定化、植民地期に遡る歴史的要因、スポーツハンティングによって生じる雇用機会や外貨収入を容易には放棄できない地域社会の事情などを挙げた。

     後半では、カメルーンでのフィールドワークにまつわる様々な情報が紹介された。具体的には、ビザや調査許可証の取得に関する情報、現地の治安状況、現地の調査において気をつけなければならない病気や安全管理に関する情報などが提示された。

     上記の報告を受けて、安田氏を中心に参加者全員での議論が行われた。具体的には、カメルーンにおける銃の規制がどのようになっているのか、何故地域住民が観光事業者や政府関係者からの「断罪」に抵抗できないのか、狩猟区内及びその周辺の村々が野生動物によって農作物被害を受けた場合、政府などによって何らかの補償がなされるのか、スポーツハンティングで獲得された野生動物の肉はどのように扱われるのか、密猟者がどのような目的で密猟を行うのかなどといった点に関して議論がなされた。


    (報告: 苅谷 康太(AA研))