海外学術調査フォーラム

V 北米・中南米

座長鈴木 紀(国立民族学博物館)
渡辺 己(AA研)
情報提供講師米延 仁志(鳴門教育大学大学院学校教育研究科)
タイトル「中南米での湖沼・年輪調査―グアテマラとペルーの事例から」

 北米・中南米分科会は,国立民族学博物館の鈴木紀准教授およびAA研の渡辺己所員を座長として,参加者総計6名のもとで開催された.情報提供講師には,鳴門教育大学大学院の米延仁志教授を迎え,「中南米での湖沼・年輪調査―グアテマラとペルーの事例から」と題した発表が行われた.

 発表では,グアテマラおよびペルーでの調査の経験をベースとしつつ,モンゴルや日本国内でのフィールドワークの経験も参照することで,海外のフィールド調査において注意すべき諸問題が広範かつ具体的な事例とともに紹介された.

 年代学・古環境学・文化財科学を専門とされる米延教授は,放射性炭素(14C)における年代測定の不確実性を補正するための標準曲線の構築に継続的に取り組まれる一方,樹木年輪および湖沼年縞堆積物から精緻な年代測定を行う自然科学的編年の方法論をもとにした古代アメリカ文明と環境変動の解明を主たる研究課題とされている.

 まず,調査班の体制,また全体的な調査の手法・流れについての紹介があったのち,具体的な収集対象試料(年輪/年縞試料および14C年代測定用試料)についての説明があった.ここでは,地域を問わず慎重を期すべき問題として,調査対象を管理する文化財行政との関係についての言及があった.さらに,ペルー,グアテマラ,モンゴル等における樹木年輪および湖沼年縞堆積物調査における実例を参照しつつ上述の諸点に関する豊富なエピソードが紹介された.ペルー調査に関しては,自然科学者と人文科学者(考古学・人類学等)の「試料/資料収集」に関する調査倫理の対比,また高地でのフィールドワークにおける健康管理の実際が,またモンゴル調査のエピソードでは,調査国ごとの政府機関による関与の相違や,現地協力者との「個人的」な信頼関係の重要性といった点にも言及が及んだ.こういった点を含む多様なエピソードに通底する一つのテーマは,「失敗」をいかに「ヘッジ」するか(「ヘッジ」できない「失敗」をいかに回避するか)という点に収斂されたように思われる.これは,海外調査を円滑かつ有意義に実行するうえでの現実的な構え(スタンス)であるとともに,紹介されたそれぞれの問題は画一的な方策によって解決できるものではないだけに,ひとつひとつの対処事例を共有するこのような機会の有効性を再確認させるものともなった.

 刺激的な発表に促される形で,調査内容に関する質問(湖沼の堆積物から具体的にどのような形で年代測定が行われるのか),調査準備に関する質問(調査経験がない地域での調査のための準備について),また調査許可書の取得にまつわる諸問題や地域ごとの相違といった質問が参加者から出され,活発な議論が交わされた.


(報告: 品川 大輔(AA研))