海外学術調査フォーラム

III 東アジア

座長窪田 順平(人間文化研究機構)
蓮井 和久(鹿児島大学)
情報提供講師大塚 健司(JETROアジア経済研究所)
タイトル「中国の環境・地域社会の持続可能性をめぐる諸問題の協働解決に向けたフィールドワークの試み」

 東アジア分科会は、JETROアジア経済研究所の大塚健司氏を情報提供講師に迎え、「中国の環境・地域社会の持続可能性をめぐる諸問題の協働解決に向けたフィールドワークの試み」に関して情報提供をいただいた。人間文化研究機構の窪田順平氏、鹿児島大学の蓮井和久氏を座長として、参加者6名にて開催された。

 中国の環境・地域社会の持続可能性をめぐる諸問題に関して、実践(現地社会のニーズ、調査研究上の制約、固有の制度や習慣)と研究(学術界や本国社会の関心、方法論やリソースの制約)のギャップを埋めるような、住民、行政、研究者、NGO間の連携・協働的研究はいかに可能かという問いに対して、2つのフィールドワークに基づく事例研究の試みを報告した。

 まず、太湖流域の水環境保全をめぐって、住民、企業、政府などのステークホルダーの連携と維持に基づくガバナンスのメカニズムをどのように確保・維持させていくかという問題に関して、多様なステークホルダーの対話と協働を促進するコミュニティ円卓会議の可能性と課題を報告した。円卓会議の経過を通して、住民、企業、政府の対話の成立、問題解決の一部合意形成、住民に寄り添った対話などが成立した。この社会実験に基づき、円卓会議における住民、企業、政府の間の協働関係成立の条件、円卓会議参加者のインセンティブ、円卓会議が法制度化されていない中での正当性の確保について分析と考察がなされた。

 次に、淮河流域の水汚染をめぐって、政府以外の関係主体による実践がどのような問題解決を目指しており、地域社会の持続可能性および発展可能性を回復するためどのような役割と意義を持ちうるかについて、NGOの活動に注目して報告した。そして、NGOの活動、国による環境宣伝教育活動、メディアの報道が互いに共鳴することで、準公共圏が形成され、一部企業を巻き込むことに発展した事例を報告した。ただし、NGOによる持続可能なエンジニアリングは政府から充分に受け入れられていない問題もある。

 協働解決に向けたこれらのフィールドワークの試みからの海外学術調査への示唆として、中国において「内での協働」に直接関与することは困難なこと、学術調査の協働相手として研究機関やNGOが重要であることが示された。また、実践の現場と研究の現場の橋渡し、協働的研究手法の刷新と共有などが海外研究者の役割となることが示唆された。

 質疑では、中国の環境問題は昔と比べて改善されつつあるか、草の根運動は中国において活発であるか、中国のほかの地域の環境問題はどのようになっているかなどに関して活発な議論が行われた。


(報告: 倉部 慶太(AA研))