海外学術調査フォーラム

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  • I 大陸部東南アジア

    座長小林 知(京都大学東南アジア地域研究研究所)
    情報提供講師中口 義次(石川県立大学生物資源環境学部)
    タイトル「東南アジアで展開するフィールド型感染症研究:人・食・病原体」

    本分科会には話題提供者1名、座長1名、書記1名を含む16名が参加した。まず参加者の間で簡単な自己紹介を行ったのちに、話題提供者(中口義次氏(石川県立大学生物資源環境学部))から情報提供をいただいた。以下に情報提供者による報告の要旨をそえる。(報告: 塩原 朝子(AA研))


    タイトル: 「東南アジアで展開するフィールド型感染症研究:人・食・病原体」

    情報提供講師: 中口 義次(石川県立大学生物資源環境学部)


     感染症に国境はない。食のグローバル化の一つに食品流通の高速化及び広域化があげられる。また、それは我々に様々な恩恵をもたらしたと同時に、食品を汚染する病原体の高速な拡散というリスクが新たに生じたということを理解する必要がある。食料自給率の低い日本では、輸入食品の安全性確保は喫緊の課題であるが、その解決は容易ではない。そのような背景の中で、2007年から2011年の基盤研究(S)及び2013年から2016年の若手研究(A)で実施した東南アジア大陸部(島嶼部を含む)のフィールドで実施した食・人・病原体についての研究を報告した。

     大陸部のベトナムでは下痢症が多発し、南北に長い海岸線を持つ特徴から魚介類の喫食を介した食中毒の発生が予測されるが、それについての詳細な情報は報告されていない。そこで下痢症患者の糞便から食中毒病原体である腸炎ビブリオによる食中毒の発生を明らかにした。また患者が発生している地域で食されている魚介類について食品衛生学的調査をしたところ、高い頻度で腸炎ビブリオ汚染が確認された。さらに、近年、魚介類の消費が増大しているタイにおいても、魚介類の喫食を介した腸炎ビブリオ食中毒の流行が確認されている。そこで、タイ中南部の2つの海域での魚介類の腸炎ビブリオ汚染を調べた。すると、東側のタイ湾で漁獲された魚介類の方が、西側のアンダマン海の魚介類よりも、汚染頻度が高いことが分かった。またそれら地域で漁獲される魚介類の取り扱い衛生環境レベルが低いために、タイでは依然として腸炎ビブリオ食中毒が流行していると考えられた。続いて東南アジア島嶼部で実施した同様の調査研究でも、魚介類の腸炎ビブリオ汚染が高頻度で起こっていることが分かった。

     これらの現状をふまえると、魚介類の腸炎ビブリオ汚染を迅速・簡便・高感度で検出するシステムの確立が望まれていることから、最新の遺伝子検査法を用いて、効果的な検出方法の開発を実施している。現在、シンガポールを含む東南アジア各国で開発した検出法のワークショップやバリデーションを行い、東南アジア各国のフィールドでの実施体制の整備を目指している。