海外学術調査フォーラム

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  • IV 南・西アジア・北アフリカ
  • IV 南・西アジア・北アフリカ

    座長黒木 英充(AA研)
    近藤 信彰(AA研)
    話題提供者深見 奈緒子(早稲田大学イスラーム地域研究機構)
    タイトル「文化遺産を軸とした災害復興―インド西部地震とハドラマウト洪水の場合」

     南・西アジア・北アフリカ分科会は、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の黒木英充教授・近藤信彰准教授を座長として、参加者10名(AA研所員を含む)にて開催された。参加者全員による自己紹介の後、早稲田大学イスラーム地域研究機構の深見奈緒子教授により、話題提供が行われた。


    <話題提供概要>

     「フィールドに<返す>」という今年度の海外学術調査フォーラムの全体テーマに基づき、災害地域における文化遺産の修復について、話題提供者が関与してきた下記二つのケースに関する報告がなされた。

    1. 2001年1月に発生したインド西部地震によって被害を受けたインド・カッチ地方バドレシュワルにおける調査
    2. 2008年10月に発生したサイクロンによる洪水の被害を受けたイエメン・ハドラマウト地方シバームの文化遺産調査

    1. インド・バドレシュワルの調査では、ジャイナ教の聖地である当地においてムスリムおよびヒンドゥーの宗教建造物の所在と被害状況の確認、サブカーストごとの居住地域区分等についての調査が実施された。NGO・地元住民とともに修復をめざすワーキンググループを結成し、出資者を得たうえで修復プロジェクトがたちあげられた。
      修復にあたってはムスリム・コミュニティのみを対象とすることは問題があるため、ヒンドゥーやジャイナ教寺院なども対象とし、住民全体を含めた対応が必要とされた。
    2. 洪水被害を受けた都市シバームの被害状況の調査を実施し、定期的に洪水被害を受けてきた当地では、古くからの村は高台に位置し、ナツメヤシを植えることで治水対策がなされていたこと、城壁で囲まれたシバームも都市全体としての被害は小さく、新しい街に被害が集中していたことが明らかとなった。そこで、修復にあたっては伝統的建築の見直しを提言し、また貧困層が多いことも考慮して、地元で調達可能なナツメヤシと日干し煉瓦、移入された木材を建材に用いたエコロジカルな建造を提案した。

    <質疑>

     まず、それぞれの調査についての詳細を確認する質疑応答が行われた。「遺産」に対する現地との考え方の相違(「遺産」を復元するのか/使える物として返すのか)によって、遺構の一部が撤去されてしまうといった問題が生じたこと、インドでは「イスラーム地域研究」という肩書が悪く作用するケースがあったこと、ジャイナ寺院の宿坊を宿舎としたことによる食事(菜食)、部屋(大部屋)の問題があったことなどが説明された。
     また、調査で「返す」というのは実際には「残す」ということではないか、という問題提起から、「何を残すのか/何を残そうか」を見極めることの難しさについて議論がなされた。さらに、調査することで見えてくる専門外の問題についての対処と、専門となる研究との間にどのように折り合いをつけるべきか、調査資料の整理はどのようにおこなうべきか、といった点に関して、フロアから各々の専門分野での対応について活発に意見交換がなされた。


    (報告:山越 康裕(AA研))