海外学術調査フォーラム

III 東アジア

座長窪田 順平(総合地球環境学研究所)
蓮井 和久(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
話題提供者1亀山 正樹(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科)
タイトル「中国との医学研究交流で感じたこと」
話題提供者2槙林 啓介(愛媛大学東アジア古代鉄文化研究センター)
タイトル「中国における考古学的調査の現状と今後の課題」

1.話題提供1

「中国との医学研究交流で感じたこと」亀山正樹(かめやままさき・鹿児島大学)

 神経や筋の「イオンチャンネル」をテーマとした研究を行っている。これまでのべ19人の中国人留学生を研究室に受け入れた。

 医学部学生の臨床志向は高まっている。アジア諸国の経済・研究レベルの発展も背景にある。日本政府の留学生増加政策・大学の受け入れの取り組みも奏功。多数(13人)は中国医科大学(瀋陽)から。1994年から毎年一人二人継続して受け入れ。

 知人の紹介が安心できる一方自薦の例は様々。成績証明で学力審査が有効。私費留学の場合、経済的側面は重要。採用・入国について言えばビザは容易になった。学内では「外国人客員研究員」「特別研究学生」という身分になる。入管には「保証人」リスクが存在するので、学内保証制度ができた。生活面については、言葉や友人関係なども重要。研究外活動(遠足など)も積極的に利用しフォローしている。その後の進路については、学位を取得した後、アメリカやカナダに行く者も多い。

 総じて学力・資質は高く共同研究自体はやりやすい。一方、成果・競争主義的な面もやや強い。生活習慣・政治的思考は特に問題となったことはない。

[コメント抜粋]

川邉「最近の日中関係。これからどうなっていくのか?」

亀山「医学系では影響はない。社会科学系で影響が強いのでは」

ダニエルス「中国政府の『反日』的な命令はないが『日本の大学勤務と言わないでくれ』と言われることも」

中見「中国医大からの留学。もと満洲医大だったから日本との関係が深いという経緯」


※14:35に301号室に移動し学振の説明会。15:30くらいに戻り10分ほど休憩して再開。


2.話題提供2

「中国における考古学的調査の現状と今後の課題」槙林啓介(まきばやしけいすけ・愛媛大学)

 はじめに調査体制と手順、共同調査の概要説明。現地では中国の文物保護法に準じる。

 調査の検討と計画書作成協議書締結→発掘申請書作成と文物局への提出→国家文物局の審査→許可を得て調査実施(現場での調査)→調査報告書の作成・刊行(中国で先に公表)→論文などの公表 ※日本の関与は下線部のみ。出土資料の整理分析と論文公表は報告書を作成・刊行後ようやく可能に。

 2000年までの日中共同調査は長江流域が多く主に水田遺構や初期稲作に関するもの。2000年代に入ると青銅器文化やムギの伝播などのテーマも。継続中のものは愛媛大+四川大・成都博物院の漢代製鉄遺跡調査など。

 共同調査研究の事例-浙江省田螺山遺跡。中国初の(考古学分野と)自然科学分野との学際調査。だがGPSの利用は中国側のみ可で、外国人は使用に制限がある。また考古学資料の直接の実測ができない。

 既存資料の再検討という形での調査も。従来の稲作起源論に対し、養魚から稲作などが派生という新仮説(博物館・研究所所蔵の出土魚骨資料・漁撈具等を再調査)。

 研究分野の問題。自然科学的分析用試料は比較的「持ち出し」も可能だが考古学資料は無理。中国考古学の歴史観は、中国の成立過程は一元論から多元論へ。しかし「中原」中心史観であることはいなめない。

 伊、独、米は研究交流が盛ん。アメリカへの留学生が多く、学位を取得し同国に就職後は中国で両国の共同調査を開始というケースが多い。一方日本は留学生の減少と学位の価値低下が問題。

 中国主導による報告書の作成という現状が共同研究における問題点。日本考古学の反省として、外国隊との日本国内での共同調査が皆無など。学生のフィールド実習なども行い、双方の互恵関係を構築する必要がある。

[コメント抜粋]

ダニエルス「文献研究では資料化の段階でデータが不正確。考古学では?」

槙林「土器や石器の破片の報告があまりない。主に完形品を報告する傾向がある」

中見「2000年代まで長江流域での調査ばかり。理由は?」

槙林「日本の原文化としての稲作文化等を探求したいという当時の研究動向を反映か?」


(報告:荒川 慎太郎(AA研))