海外学術調査フォーラム

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  • II 島嶼部東南アジア・太平洋・中南米
  • II 島嶼部東南アジア・太平洋・中南米

    座長岡本 正明(京都大学東南アジア研究所)
    木村 秀雄(東京大学大学院総合文化研究科)
    髙樋 さち子(秋田大学教育文化学部)
    話題提供者石川 登(京都大学東南アジア研究所)
    タイトル「アブラヤシ・プランテーション開発と熱帯雨林社会:東マレーシアにおける文理融合型フィールド調査」

    まず全員で自己紹介を実施した(詳細は略)。

    自己紹介に続いて石川登教授(京都大学東南アジア研究所)による報告が「アブラヤシ・プランテーションと熱帯雨林社会―東マレーシアにおける文理融合型フィールド調査」と題して行われた。石川教授はマレーシアのサラワク州での基盤S複合領域枠でのプロジェクトに基づく研究に関して報告を行った。その内容は多岐にわたったが下記のような項目が含まれている。

     まず石川教授は1950年代から日本企業がフィリピンを手始めに東南アジアで森林伐採してきた。最後がサラワクであった。ケッペンの気候区分で熱帯雨林気候に相当するアフリカのコンゴやアマゾンなどの地域にも同研究は適用できるのではないかという。

     石川教授のプロジェクトの目的は、プランテーションを単に悪しきものと理解するだけでは意味がないので、現地の熱帯の生態系と地域社会の生存基盤確保の調査を目指すものであると説明があった。そこで特に複合ランドスケープ、すなわち多文化、民族社会、多言語を用いたデータ収集を重視した。具体的には英語、華語、マレー語等を媒体とした実地調査である。他方で概念的にはバイオマス社会という概念を提起した。この研究はミンツやウルフらの先行研究とは内容的に異なっている。すなわち、地元の社会がどう変わったのかに石川教授らはより焦点を当てた。他に動植物と人間の関係にも注目した。これは人間中心主義を相対化する視点を取り込んだものと自負している。また文系と理系が同じ釜の飯を食って寝食を共にしながら研究するという文字通りの文理融合型の研究を実施した。またサラワクの調査許可でプランテーションという語を入れるだけで普通は難しいが、本研究では許可が取れたのも特色である。また企業側にも敷地内での調査許可を取得できた。

     以上の石川教授の報告に続いて質疑応答が実施された。なかでも石川教授のプロジェクトの特徴である文理融合型の研究に関する質問があった。とくに文系と理系の共同研究での利点や工夫は何かという点に関して質問がなされた。これに対し石川教授は、文系の研究者の場合だと、ターミノロジーを取っても、たとえば商品連鎖(commodity chain)といった概念でサラワクの産物を理解してきたが、しかし実際にはロタン一つを取っても、その品種による多様性が極めて多いことを理系の研究者から教えられた点などを例にとって回答した。逆に理系の人は文系の親族組織の知識なども知らないが、そうした知識は理系の研究にも必要という形でお互いに補完できたとした。

     また質疑応答の後半では調査許可の問題や科研費の執行などに関する質疑応答もあった。座長の木村教授から、科研費の使用に関してはJSPSに加えて各大学での判断がかかってくる。ゆえに他の大学での事例、調査国での事例などを挙げるよう言われた。

     次に治安に関する渡航延期の情報などが出るとどうか?外大は外務省の基準に従ってもし危険情報が出たら出張命令が出ない、という問題が提起された。

     これに関しては、例えば京大では学生をもっている部局で学生を連れていく場合には保険が必須でかつ保険の保証金額の上限がないようなものだという情報が上がった。ただ現状では学生自身に負担させるのが問題点とされた。他の参加者からは、そこに間接経費を使えばいいのではないかなども指摘された。

     最後に資料の持ち出しや調査ビザの問題が討議されたが、情報交換の結果、国別の差が大きいと判明した。たとえばインドネシアも外国人による資料の持ち出しは非常に難しくなったので、今ではインドネシアのカウンターパートの人に資料を持ってきてもらう。また調査ビザは中南米は分野にもよるがさほど困難はない。ブラジルとかではカウンターパートがいないと難しい、などが報告された。


    (報告:床呂 郁哉(AA研))