海外学術調査フォーラム

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  • V 北ユーラシア・中央アジア・極地 (含ヨーロッパ)
  • V 北ユーラシア・中央アジア・極地 (含ヨーロッパ)

    座長本山 秀明(国立極地研究所)
    三尾 裕子(AA研)
    話題提供者三浦 英樹(国立極地研究所)
    タイトル「極地の地形を読む―「歩いて見て考えるフィールドワーク」の方法論―」

     本分科会に集まった人たちの調査対象地域、分野も多岐にわたっているので、話がまとまりにくいが海外調査をする、という共通点で情報交換する、という本山さんの言葉で始まった。まず出席者がフィールドと専門、科研の課題内容について、最近携わっている研究について等まじえながらの自己紹介がなされた。

    山本さん

     スペインにいる伊達家の末裔についての研究をDNA鑑定等で行っている。鑑定には一人6万円のコストがかかる。今後、本腰をいれてやるならば日本で50人、スペインで50人、現代人もやらねばならない。鑑定料も研究費につぎ込むか。世代が変わると、遺伝子情報が少なくなるのではやく行ったほうがいい。外務省関連とのやりとりはまだできていない。

    長谷川さん

     カシミールの国立公園における遊牧と生態の調査を衛星画像も使いながら行っている。ほんとうは自然にやさしい生業のはずが、ここの場合は負担が大きくなってしまっている。現金収入がないので燃料が買えない。木はほとんどない。ヤクの糞を燃料に。

     本山さんも同地域を15年前に調査していたが、当時と生活はほとんど変わらないのでは、というやりとりがなされた。

    豊島さん

     海外に赴き、当地の語彙集、文法書をつくるというイエズス会のやりかたがAA研にいきている。研究は文献学なので、文献があれば海外にでなくてもできるが、デジタル化したものは装丁等の時代の情報が等閑視されている。本の物理的形状、なども非常に重要なので、原本に調査するためにはどこにでもいく。主にヨーロッパとアメリカ。

    児島さん

     フィールド言語学が専門でカフカス、コーカサスで調査している。

    椎野

     専門は社会人類学、東アフリカのケニアとウガンダで調査。近年、科研だけでなく、さまざまな資金による調査で地球惑星科学系の人たちもサンプリングのためにアフリカ大陸にくるようになった。

    杉山さん

     世界で一番古く、大きく深い湖であるバイカル湖に注目している。バイカル湖を経由してエニセイ川そして北極海へと流出する全長5500kmにも及ぶ超長大な水系(信濃川でさえ300kmであるから、いかに長いかが分かる)、フブスグル-バイカル-エニセイ流域の研究もしている。これだけの長い距離を水が流れて、停滞する、その水域になにが起こっているか。水系全体の研究。

     ただ95年に初め行った頃と比べ、ロシアでの調査が大変しづらくなっている。当時は石も植物も泥も持って帰れたが、いまは水と水をろ過した濾紙だけ。濾紙についた植物プランクトンの調査をするのみ。生えている大きいものはダメ。泥もダメ。土壌の調査も難しく、去年学習したことが生かせない。制度もころころ変えるので、前回行ったときも5か所の役所をまわって許可をとってかえってきた。


    話題提供 「極地の地形を読む~歩いて見て考えるフィールドワークの方法論」
          三浦 英樹(国立極地研究所)

     地形学はいろんな時間や空間の枠組みがみることができる。氷層の変動とともに人も変わる、ということをみていきたい。

     最初は地理学を学んだ。そののち、自然環境を含めて地理的(空間的)視点と歴史的(時間的)視点から人類をとらえることを研究課題にするようになった。人類というファクターなしでは地球システムを考えられないようになった。

     人類、ホモサピエンスは約700万年前から、エチオピアから南極をのぞく地域へ拡散した。その当時はどのような環境だったか、最近わかってきたことが多い。

     氷床量、気温、Co2、海水水準変動、人口の推移は大きく関係する。10万年あたりから出アフリカ、しかし人口は変化しなかった。しかし、産業革命で大きく変わった。つい最近、おおきな変動がおきたことになる。実際のところ、産業革命以降におけるエネルギー使用量と二酸化炭素の量を一気に増えた。地質学的な成果により、当時の人口もわかるようになってきている。

     第四紀という時代にはいかに情報がたくさんあるか、は知られるところである。地球の地形のあとが残っており、全体の鍵、枠組みをつくるために参考になる。氷河が土砂を運び、土手の地形を変える。堆積物から植物の植生もわかる。過去と現在の情報は未来の鍵である。

     地球とは、個体と個体の両方の性質をもっている。氷床がふえると地球は変形する。氷床がへると丸くもどる。海底隆起もある。つまり氷河によって地球は変形し、地形がかわる。地形の見方も、面に注目すると時代の前後関係がみえる。切った、切られた面。一つの面に注目しても、面の形態で、なにによってどうつくられた面かわかる。

     その身近な事例として、参加者にとびだす地形図が青と赤の色眼鏡とともに配布され、多摩川をめぐる断面、地形を概観した。たとえば、3万年まえの多摩川の河床がつくった平坦面と交差しているところが狛江という地域。日本の平野には沖積平野が多く、遠くの氷床の融解にともなってできたものが多い。

     グリーンランドの氷床がとけると海面が6~7m上昇、南極氷床がとけると海面は7~8m上昇するといわれている。今後、地球温暖化とともにどのように地形、環境が変わるかは過去の氷床の歴史をみてわかる。


    ●グリーンランド、南極、で調査する際の注意点

    病気もなく調査許可関係は楽だが、事故に注意する必要が大。十分に訓練をして現場にいく必要がある。氷床があったところの隆起はまだ続いているおり、調査が進められている。

    ●参加者からの質問

    Q 自然地理学の発達とグーグルアースの発達の関係は。

    予備調査が楽に。確実になにかある、と予想がつくようになった。


    (報告:椎野若菜(AA研))