海外学術調査フォーラム

  • ホーム
  • next_to
  • 過去のフォーラム
  • next_to
  • 2012年度
  • next_to
  • IV 南・西アジア・北アフリカ
  • IV 南・西アジア・北アフリカ

    座長藤田 耕史(名古屋大学大学院環境学研究科)
    黒木 英充(AA研)
    話題提供者小森 次郎(帝京平成大学現代ライフ学部)
    タイトル「ブータンにおけるフィールド研究事情」

     本分科会では、JICA専門家としてブータンに赴任され、氷河湖決壊の危険性についてプロジェクトで調査をおこなわれた小森次郎さんからお話し頂いた。

     氷河湖とは、氷河が縮小して自然に形成される地形で、ブータンでは1960年代からその決壊の危険が警告されていた。2008年にブータン側から調査への支援の要請が出て、日本はODAと絡んで調査を実施することになった。「ブータンヒマラヤにおける氷河湖決壊洪水に関する研究」と名付けられ、名古屋大学が事務局を引き受け、日本側はJAXAやJICAも参加した。調査は、衛生画像やGPSを使って氷河湖の数を確定するところから始まり、 湖畔の傾斜角度や過去の決壊事例を参照して、危険度を評価していった。また魚群探知機で水深を測ったり、上流側の条件などに基づき、ハザードマップを作成した。3年間のプロジェクトで、その間に5回のツアー、4流域のべ150日の調査が行われた。調査の過程では、JICAからGPS測量の指導など技術移転も行われた。

     フィールドで直面された問題としては、調査に関わる現地協力スタッフの手配や、高地であるがゆえのトラブル等が指摘された。ブータンでは過去10年以上、登山隊の受け入れが禁止されていたため、トレッキング・ガイドが圧倒的に未熟で、緊急時に頼りにならない。とくに交渉力が弱く、登山道具の使い方を知らないなどの問題があった。他方で、地元の慣習に基づき、通常のキャンプ地以外への移動を馬方らが嫌がる傾向があり、かつて事故があった場所や、悪霊話がある場所への移動は断固拒否される場面もあったという。気候的には、5月と10月はサイクロンのシーズンで、ドカ雪になりやすい。その季節には、足止めを受けたり、凍傷などの事故が生じた。トレッキング道が天候により崩れたりする危険もあった。高度5000メートル前後の峠越えの際などは、高山病にかかる者も出たが、国内に常駐のヘリがないため、JICAを通して救難依頼することもあった。また標高3500メートルを越えた高地では、読み取りの針が浮かないため、ハードディスクを使用するノート型パソコンは使用できないことなどが、クイズ形式で紹介され、聴衆の関心を集めた。

     ほかにもビザの取得や、治安・健康管理、伝染病対策や通信環境についても話の中で触れて頂き、大変興味深く、知りたい点を網羅されたご報告となった。

     質疑応答では、現地とのコミュニケーションに用いた言語や、フィールド調査のための体力作り、高山病にかかりやすい体質など、技術的な内容に関する質問のほか、調査提携先の現地の人々が学術的成果を出すことに、どれだけ意欲があるか、といったことなど幅広い質問が出され、有意義な情報交換が行われた。


    (報告:錦田愛子(AA研))