海外学術調査フォーラム

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    座長床呂 郁哉(AA研)
    澤田 英夫(AA研)
    話題提供者片倉 賢 (北海道大学大学院獣医学研究科)
    タイトル「ミャンマーとタイ北部における家畜寄生虫症の分子疫学と抗寄生虫薬用植物の探索」

    1.開会に際して

     床呂から分科会の流れ、事務連絡。続いて澤田より報告者の紹介があった。


    2.話題提供

     「ミャンマーとタイ北部における家畜寄生虫症の分子疫学と抗寄生虫薬用植物の探索」
      片倉賢(北海道大学大学院獣医学研究科)

     2010年、科研基盤B「ミャンマーとタイ北部における家畜寄生虫症の分子疫学と抗寄生虫薬用植物の探索」が採択された。調査地の選択理由は:1)ミャンマーからの留学生(寄生虫学)が後にカウンターパートに。同様にタイ人、バングラディッシュ人もカウンターパートに。信頼できるカウンターパートがいること、2)現地の基礎研究が遅れていること、3)動物相・寄生虫の種類が他と異なるなど興味深いエリアであること、4)現地の勤勉正直な国民性など、による。目的は、寄生虫相の調査と、抗寄生虫薬用植物の探索と活性成分単離・応用である。

     背景:これまでミャンマーにおける家畜原虫病の流行状況が明らかになっていなかった。現地には薬用植物による疾病対策があった。これを家畜に応用できないか?

     研究概要:家畜(牛、水牛、ヤギ、馬など)の血液中の原虫としては、タイレリア(マダニが媒介)、バベシア(マダニが媒介)、トリパノソーマ(アブが媒介)などを、また、消化管寄生虫としては肝蛭を調査対象とした。

     調査材料:牛、ヤギから採血。原虫DNAを抽出。

     調査結果など: 2009―2010年に調査した結果、PCR検査によるタイレリアとバベシアの牛における感染率は全体的に高かったが、品種別には南アジア由来のゼブー種(コブウシ)の感染率がヨーロッパ由来のホルスタイン種(フリージアン)よりも低いことが示された。また、感染率はミャンマー国内で地域差がみられた。一方、牛と水牛から採取した肝蛭の遺伝子解析の結果、肝蛭のごく一部は中国由来であるが、大多数はミャンマーに特有の遺伝子型をもっており、おそらく西(インド)から来たものである可能性が述べられた。

     続いて調査地、ミャンマーについて、特に新首都ネーピードーについての説明もあった。現地調査のポイントとしては、調査計画の事前連絡が重要であること、アライバルビザなどの留意事項が述べられた。会計・支払いの問題についても言及された。

     発表終了後、ミャンマーの調査スライドが上映された。アブの捕らえ方などの写真もあった。


    3.質疑応答

     床呂より「アンケートは部屋を出る際提出」とリマインダー。参加者各人の自己紹介に続いて、次のような質疑応答があった。( )は発言者。

     問(大神)「ミャンマーでの飲料水、井戸水はどうか?」
     答(澤田)「一般は井戸水。ミネラルウォーターは売っている」(新谷)「都市部では水を甕ごとで買ったりもする」(大神)「バングラでは『ヒ素フリー』の水などもあり。意識が違う」

     問(ダニエルス)「原虫の調査。ミャンマーの気候の違い。原虫と気候は関係あるか?」
     答(片倉)「ダニの分布とは何か関連があるかも。動物の移動とダニの移動を検討する必要がある。乳牛と役牛でも異なるかも」

     問(澤田)「ネーピードーを経由しないと調査地に行けない?」
     答(片倉)「今回の共同研究の相手先はミャンマー獣医科大学だったので、所在地のネーピードーに来てミィーティングとセミナーをするように言われた。ただし過去にはヤンゴン経由、直接現地という場合もあった。」

     問(澤田)「ヤンゴンからネーピードーはどのように?」
     答(片倉)「夜行バスで。ネーピードーからバガンまではレンタカー。高額だった」

     問(針原)「FTAカードによるPCRの技術的な問題は?」
     答(片倉)「FTAカードで抽出したDNAには夾雑物が混ざっているので、PCR阻害が受けにくいとされる島津製作所のAmpdirect Plusバッファーを利用している。」

     問(竹内)「現地の牛は余り罹患しない?抵抗力のメカニズムなどは?」
     答(片倉)「現地の牛に抵抗性があることはよく知られた事実である。が、遺伝子レベルではまだよくわからない。ただ、タイレリアでは遺伝子型のことなる混合感染もある。ミャンマーの遺伝子型がどのタイプに近いは今後調査が必要」

     問(西井)「HLAとは?」
     答(竹内)「人の抗原(白血球)。免疫に関するたんぱく質で白血球にあるもの」

     問(ダニエルス)「海抜の低い地域ではマラリア。長く住んでいるとマラリアの対抗性ができるか?」
     答(竹内)「赤血球が重要な因子。東南アジアの人はかかりにくい。媒介する蚊が棲息しにくい高度だとマラリア率も低い」
     答(片倉)「三日熱マラリアには黒人はかからないとされる。マラリア原虫に対するリセプターの問題もある。持続感染による対抗性獲得もあるといわれている。」

     問(片倉)「支払い。皆さんは立て替え?小口現金制度は使っていますか?」
     答(澤田)「お金をあまり使わない。が、持っていく時はドル現金」
     コメント(片倉)「調査では100万単位で必要になる場合も」
     コメント(ダニエルス)「文献調査で大金が要る場合も。中国に口座作ったこともある」
     コメント(栗原)「概算払いで、持って行ったこともある。理由書提出は必要であるが」


    (報告:荒川慎太郎(AA研))