海外学術調査フォーラム

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  • VII アメリカ大陸、もしくは超域的研究分野
  • VII アメリカ大陸、もしくは超域的研究分野

    座長伊藤 元己 (東京大学総合文化研究科
    木村 秀雄 (東京大学総合文化研究科)
    話題提供者加藤 俊英 (東京大学総合文化研究科)
    タイトル「中南米における生物多様性調査:マメゾウムシを探して」

    1) 話題提供報告(約75分)

     植物を餌とする植食性昆虫は極めて種類数が多く、これまで知られている陸上生物の4分の1を占めている。クワの葉しか食べないカイコの幼虫のように、植食性昆虫の70%以上が1種、あるいは数種のごく近縁な植物のみを餌とする「スペシャリスト」であるが、一方で他の植食性昆虫と比べて著しく広い範囲の植物を餌とする「ジェネラリスト」も見られる。スペシャリストとジェネラリストがお互いにごく近縁な種である場合もあり、どのような条件でジェネラリストあるいはスペシャリストが進化するのか、という疑問は生態学者の興味を集めてきた。

     数学的なモデルやシミュレーションなどを用いた理論研究からは、様々な植物を餌とするジェネラリストからスペシャリストが一方向的に進化してくる、という結果が得られてきたが、現実の植食性昆虫がそのような方向性を持って進化していることを見出した研究例はほとんどない。話題提供者はこの問題に興味を持ち、マメゾウムシという植食性昆虫の中でもMimosestes属に着目して研究を行ってきた。

     マメゾウムシはマメ科植物の果実や種子に産卵し、幼虫は植物の種子に潜りこんで中身を食べて成長する。植物も大切な種子を食べられないよう、昆虫に対して有毒なアミノ酸や、昆虫の消化酵素を阻害する物質など多様な毒性物質を種子に蓄積しており、マメゾウムシはそうした毒性物質に対する解毒能力を獲得することで種子を利用している。一種類のマメゾウムシが持つことのできる解毒能力には限界があるために利用できる植物は限られており、その結果マメゾウムシでは特にスペシャリストが進化しやすいと考えられている。しかしながら、話題提供で紹介した研究では、Mimosestes属は14種のうち11種はスペシャリスト、残り3種はジェネラリストと考えられるが、ジェネラリスト3種は、スペシャリストから進化してきたことが明らかになり、しかも、これら3種のジェネラリストはスペシャリストの祖先からそれぞれ別の機会に進化し、つまりジェネラリストの進化がたった一度ではなく、マメゾウムシにおいて度々起こっていることが示された。

     話題提供報告の中では、分子系統解析という研究手法に関する説明に加え、ジェネラリストとスペシャリストの進化に関与している生態学的要因と推定されるマメゾウムシの産卵習性についても、野外観察に基づいて丁寧な解説がなされた。


    2) 質疑応答・討論(45分)

     質疑応答では、マメゾウムシの産卵習性について活発な議論が行われたのに続けて、在外研究の問題点や注意点等について意見交換が行われた。主な内容は以下箇条書きで列記しておく。

    • 未知の研究地域での現地調査にはどうアプローチしたらよいか→カウンタパートが大事/同地域で現地調査をした他分野の人と組んでその調査経験を活用する/研究分野によっては、資源などとの絡みで、自己の財産が侵される危険性を感じる原住民もいるので、現地住民とのコミュニケーションを通じて研究の趣旨を理解してもらうことも大切。
    • 旅行保険は?→ゴールドカードなどに付随している旅行保険や傷害保険で対応する方法もあるが、その場合通常は、遭難調査などがカバーされないといった制限があり、別途に海外保険を購入した方が安心/内戦や危険地域などでは、商業海外保険でも、除外事項となることが多いので、特殊な場合は、代理店等との個別相談が必要/科研では保険料は払えないので、個人負担となるが、盗難などもカバーされるから元はとれる。
    • 中南米へは、北米経由での渡航が多く、「通過」(Transit)でも、入国と同じ持ち込み規制が適用される場合があることに注意!→持ち込み許可が得られない場合は、規制対象物品を別送品として調査地から直接日本に送った方が安全。
    • AA研では、車借り上げの場合、日当を半額に減額することになったが、それは、学振や文科省の指示に基づく措置で、今後全国に広がるのだろうか。→他の研究機関では前例未聞//事業仕分け等で何か言われたらどう説明するかという心配で外語大の事務当局は勝手に決めたのではないか/この問題は、教授会が学長や部局長に働きかけ、事務に指示すればよいのに、AA研教授会の総意が経理担当者を動かせないのはどうしたことか?
    • 現地での謝金払いの方法について→立て替え払いの上帰国後精算。
    • 荷物のoverchargeは最近厳しくなっているのでは?→overchargeも科研費で払える

     (以上全項目にわたり、「→」の後ろは、参加者の中から出された助言や感想であり、必ずしも主催者側の意見を反映するものではない点をお断りしておく)


    (報告:陶安 あんど(AA研))