海外学術調査フォーラム

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  • Ⅴ 北ユーラシア・中央アジア・極地(含ヨーロッパ)
  • V  北ユーラシア・中央アジア・極地 (含 ヨーロッパ)

    座長本山 秀明 (国立極地研究所)
    黒木 英充 (AA研)
    話題提供者神田 啓史(国立極地研究所)
    タイトル「海外における観測網と地の利―南極・北極の事例」

     本地域分科会では,各出席者自己紹介(11:00~11:30)に続き,話題提供者(神田啓史,国立極地研究所)による講演「海外における観測網と地の利─南極・北極の事例」(11:30~12:45)と,それに関する質疑応答(12:45~13:00)が行われた。話題提供者による講演では,本地域別分科会で検討対象とする北ユーラシア・中央アジア・極地のうち,特に南極・北極における研究を例として,遠方地での調査・観測の現状と必要性に関する説明が行われた。以下その概要:

     南極での調査研究・観測は,主として昭和基地を拠点に国家事業として行われ,その研究領域は宙空圏,気水圏,地圏,生物圏と多岐に渡る。南極で調査・観測を行う優位性として,南極は1) 地球環境変化の最も敏感なセンサーである,2) 地球環境史のタイムカプセルである,3) 宇宙に開かれた窓である(c.f. オーロラ観測),4) 極限環境に適応する遺伝子資源の宝庫である,5) 地球最古の大陸である,などの点が挙げられる。南極地域観測事業のうち,基本観測(定常観測・モニタリング観測)は極めて重要な意味をもつ。継続して長期的に実施される基本観測から得られた成果は,オゾンホールの発見に代表されるように,国内のみならず国際的に高い評価を受けている。近年は南極へのアクセスも容易になり,航空機によって内陸部に直接行くことも可能である。このように,南極において調査・観測を行う意味(地の利)は大きい。

     北極における観測網も,南極に準じるような重要性をもつ。国立極地研究所では,1990年の北極圏環境研究センター発足以来,文部省国際共同事業費による5カ年計画「北極圏地球環境共同研究」(1990~1994年度),同事業費による4カ年計画(1995~1998年度),科研費特定領域研究(1999~2004年度)により,北極観測研究を継続してきた。しかし2004年以降,安定した経費が全く得られていない状態である。一方,研究者の国際委員会であるSCAR(南極)及びIASC(北極)の加盟国は,前者が34カ国,後者が19カ国であり,北極側の加盟国数は少ない。また,SCARに加盟している国のほとんどがAntarctic Treatyに加盟しているのに対し,Arctic Council は北極を所有する8カ国で構成され,他のIASC加盟国は,オブザーバーとして参加できるのみである(ただし,8カ国以上オブザーバーになれないという制約がある)。このように北極研究においては所有8カ国と他の国とが同等に扱われない。更に,日本から北極までの渡航旅費は非常に高額である。しかし,深刻な氷河の後退現象を見ても明らかなように,温室効果ガスの濃度測定など,北極においても基本観測(モニタリング観測)は必要であり,他の国と比べ精度が高く,南極との比較研究も行うことができる,日本による研究は,非常に重要な意味をもつ。Arctic Councilだけでなく,北極研究に関連する各国が協力してモニタリングを行っていくべきであり,その観測網の中に日本がどのように加わっていくかが重要な課題となる。

     続く質疑応答では,データ収集の方法・目的・意義とそれに関連する外部資金獲得の問題を中心に討論が行われた。また,地域別分科会に関し,事前に該当地域研究の問題点をリストアップした上で,解決策を提示するような会にした方がよいとの提案がなされた。


    (報告:伊藤 智ゆき(AA研))