海外学術調査フォーラム

III 東アジア

座長窪田 順平 (総合地球環境学研究所)
三尾 裕子 (AA研)
話題提供者松川 節 (大谷大学文学部)
タイトル「モンゴル国における碑文調査の経験から」

<開会に先立って>
分科会に先立ち、三尾から会場・全体スケジュールについてアナウンスがあった。 続いて、窪田より本フォーラムと東アジア分科会に関する説明、及び、出席者全員から簡単な自己紹介があった。


<話題提供>
報告者から専門・経歴に関する自己紹介に続き、話題提供があった。


「モンゴル国における碑文調査の経験から」松川節(大谷大学文学部)


0.モンゴルという国と地域
 はじめにモンゴル国に関する基本情報が提示された。民族・宗教・国家制度などの基本情報が述べられた。


1.調査履歴
 1990年の民主化以降、外国人による調査が可能になり、報告者のビチェース(文書・碑文)調査の履歴が説明された。報告者の扱う資料は、数としては多くないため、大部分の調査は終了したものの、その後、岩壁銘文(刻書・墨書)などが発見されたため、調査が必要になったことが報告された。
 具体例として示されたのはエルデニゾー他である。エルデニゾーは16世紀後半に建立された、仏塔に囲まれた寺院。北側にモンゴル帝国の首都「カラコルム」跡があり、碑文が残る。同所における碑刻の一次資料の重要性を、例を挙げて説明した。
 広い地域であるが、現地の人間は「どこに何があるか」意外と知っていることなども指摘された。


2.調査に関連して
 治安状況、一時期深刻な経済状況、近年の地下資源開発への反発、などの現地概況が語られた。続いて、学術調査・渡航の手続き、宿泊・テントに関してなど、地域的特性とともに説明が行われた。
 研究機関・大学の情報も提供された。大学数は多いものの、最も規模の大きいモンゴル国立大学はあまり海外交流が盛んでないことなども述べられた。
 健康管理・病気に関する注意が、個々の事例とともに述べられた。

 

(例)
馬乳酒:発酵してない状態だと細菌感染も懸念される
やぶ蚊:日本製の虫よけ等が機能せず、ネットを被るしかない
草アレルギー:最近問題になっており、花粉症に近い
チャーター車、調査協力費について会計関係が事例とともに示された。
資料持ち出しについて。
例えばモンゴルでは、拓本2部(日本用と現地用)をとることなどの例、地図が持ち出せなかった例などがあることが紹介された。


<質疑応答>
窪田:調査の許可はどのようになるか?
松川:発掘は国レベル。拓本レベルでは研究所長・博物館長レベルで。

窪田:カウンターパートを通して申請するのか?
松川:その通り。最近は、中国とモンゴルが共同協定を結ぶ場合、モンゴル人の感情的に問題がある場合もある。

山本:モンゴル人の性格は?他の民族などとの違いなどはあるか?
松川:表裏がなくて(調査などは)やりやすい。いったん知り合うと人間間のつながりが深くなる。

山本:研究上もビジネスライクか?
松川:その通りだが、古い付き合いは大事にしてくれる。

山本:モンゴルに研究を持ち込む。先方のメリットは?
松川:援助ではなく、モンゴルでも研究者が育って欲しいので、「今は代わりに」というスタンスで調査を行っている。例えば、チンギスハンの墓探し。結局見つからなかったが、モンゴル人自身が行おうという機運が。

服部:調査上、内蒙古との違いは?
松川:漢族中心の地域はもっと(現地調査は)厳しい。内蒙古はそれでもやりやすい。成果公開などに関して中国国内では難しさもある。

窪田:中国領内に関してはどのような問題が?
松川:ドライバーの問題。ドライバーが過剰に尊重される。また、まず現地の研究機関との信頼関係を十分築かなければならない。

荒川:モンゴルでは軍、軍事基地はどうか?
松川:これまで問題となったことはない。

三尾:ベトナムなどでは現地での世話人・インフォーマントへ謝礼。そのようなストレスはないか?
松川:モンゴルでは土産・金銭必要なし。食事・酒などを提供する程度。ただし,大規模は発掘調査に当たっては,調査協力費(ロイアヤリティー)が必要。

三尾:ベトナムでは碑文は写真撮影。拓本と写真のメリット・デメリットはどうか?
松川:モンゴルの場合、石が磨り減っていたりすると、拓本でなければ文字が見られない。レーザー光線解析など最新の技術も投入される。

吉田:現在、中国と共同研究協定。モンゴルでは問題などは?
松川:事が起こらなければ問題ない。資料の持ち出しなどを考えると、結んでおいたほうが良い。
窪田:日中間には、国家レベルの協定(日中科学技術協定)があり、自然科学系のサンプル輸出許可に役立つ場合もある。

吉田:共同研究協定にサインするのはどのレベル(の人間か)?
松川:日本側は研究者個人・モンゴル側は機関長。

服部:危機管理。公安などへの対策は?
松川:政治的な背景による危機はない。布教目的などはマークされることがあるが。

服部:中国では、自治区など入るだけで問題が。GPSはどうか?
松川:中国、ラサなどの地域では厳しい。特に外国人に厳しい状況。

飯田:中国では、未開放地域に入ることが制限されているが、調査に支障はないか?
松川:20年以上前に知らずに入り,反省文を書かされたことがある。
窪田:2007年3月の測量法改正直後、知らずにGPSを使用して行政処分を受けた事例がある。具体的な処分としては、罰金と機材(GPS)の没収。
服部:精密なGPSで問題になる場合がある。
窪田:時間はかかるが、国務院から測量の許可をことは可能。実際に許可された例もある。

山本:日本以外にも、国際的な調査は入っている?
松川:ドイツ、トルコ、中国、韓国、ロシアなども入っている。

?:モンゴル墓碑残るか?モンゴル人墓碑が好き?
松川:一般に墓碑を建てる習慣はない。近年は墓を立てるのも一般的に。

窪田:最近の研究でわかることなど。
松川:ウイグルの墓や祭祀施設が盛んに発掘されており、仏教色が強いことが最近わかってきた。


活発な質疑のうちに分科会は終了した。


(報告:荒川 慎太郎(AA研))