海外学術調査フォーラム

III 東アジア

座長佐藤 洋一郎(総合地球環境学研究所)
三尾 裕子(AA研)
話題提供者児玉 香菜子(千葉大学文学部)
タイトル「中国内モンゴル自治区における環境政策の現地調査から」

1.話題提供のための報告(約30分)

要旨:

 報告者はフィールド調査にかかるビザ、資料、調査方法、成果の公開など具体的な方法について説明したのち、その成果の一部を報告した。

 本報告でとりあげた地域は、黒河下流域に位置する中国内モンゴル自治区エゼネ旗で、年降雨量が50mm以下、中国の中でも最も乾燥した地域に位置している。そこに、祁連山脈に振りそそいだ雨と雪が河川となって流れ込んでいるため、オアシスが形成されている。エゼネ旗では黒河中流域の灌漑によって水資源が急減し、オアシスの荒廃が進んでいる。

 しかし、こうした変化は衛星データでは量を把握することができても、質の把握ができない。そのため、牧畜民の認識から一般的に有用な資源といわれている水資源と植生に焦点をあて、これらの変化を具体的に地図に語りを重ね合わせるという手法によって再構築した。その結果、空間的および時間的な自然環境の変化が具体的に明らかにされた。

 本研究は総合地球環境学研究所の文理融合型の大型プロジェクトとして実施された研究成果の一部であるが、実質的な文理融合とその成果の統合がプロジェクト終了後にさまざまな形で実現されつつある。また、文理融合という分野をこえた環境に関する共同研究の成果を公表する学術雑誌が極めて限られていることを指摘した。


2.質疑応答(実施時間約30分):

問:河川水の減少と降水量の減少は、どういう関係にあるか。

答:実際にはもちろん因果関係はないが、「河川水が減少すれば、雨が減る」という語りがあり、この50年に降雨量が減少したのも事実である。

問:中国の現地で入手した地図を出国の際没収された経験があり、百万分の一以上の地図が没収対象らしいが、報告書の経験はどうか。

答:出版市販されている地図以外は入手が困難

問:「雨が降っても草がもう生えない」という語りはどういう意味か。

答:河川水の減少によって土壌水分が変化し、以前少し雨が降れば草が生えたところでも今は草が生えない。

問:住民の語りはそのまま信じてよいか。きちんと裏を取らねばいけない。

答:自然科学の方法によって確認する必要有り。

問:モンゴルとの国境はどうなっているか、遊牧民は往来しているか。

答:90年は決まった時期にしか国境は通過できなかったが、現在は一年中中国人と蒙古人の国境通過が許されている。国境貿易が盛んである。

問:各研究班の間の関係はどうなっていたか。

答:文理融合の問題となるが、各専門家は自分の領域の学会誌などで成果を発表し、一緒に発表して知見を統合する場所はない。

問:人類学者は一人で現地に入り、長期に滞在するのを常とするが、その後共同研究をする段になると、それまで一人で遂行した研究との方法論的なギャップが大きく、理科系の学者との共同研究になれば、ギャップは一層大きくなるのではないか。このギャップを埋める工夫はどうか。

答:
・環境にはもとから関心があった。日本砂漠学会にも入っていたから、環境問題研究にはあまり違和感がなかった。
・水不足という問題は自明となっていたので、研究リーダーからは明確な指示がなく、比較的自由であった。それで、あまり共同研究への違和感はなかった。

問:地図に関わる制限は、埋蔵資源と関係があるのではないか。

答:近くには、石膏石、石炭や天然ガスが取れるから、関係があるかもしれない。

フロアのコメント:独立運動の問題もあるのではないか。


3.参加者の自己紹介と自由討論(約50分)

 自由討論においては、次のような研究上の障碍について話し合われた:

  • 中国での気象等の観測などの持出しの困難さ(中国の気象法には、外国人による気象観測およびデータの持ち出しを禁止する条項あり。)
  • 新疆での調査には、テロ対策などのため調査許可が取れなくなっている。
  • 古文書は必ずしも一般公開となっておらず、アクセスには人脈が大事。
  • 標本の持ち出しについては、農業省などの許可を取って持ち出せる場合とできない場合とがある。
  • 中国での調査研究が問題になるのは、法律そのものよりも、法律に基づいてクレームをつける団体がでる時である。だから、クレームがでないようにカウンタパートと事前に上手に交渉しておくことがコツ。

(報告:陶安 あんど(AA研))