海外学術調査フォーラム

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  • VII アメリカ大陸、もしくは超域的研究分野
  • VII アメリカ大陸、もしくは超域的研究分野

    座長伊藤 元己(東京大学大学院総合文化研究科)
    木村 秀雄(東京大学大学院総合文化研究科)
    話題提供者坂井 正人(山形大学人文学部
    タイトル「ペルー共和国における発掘調査:調査許可・遺物の持ち出しをめぐって」

     アメリカ大陸もしくは超域的研究分野地域分科会は、東京大学大学院総合文化研究科の木村秀雄教授と伊藤元己を座長として、参加者5名を得て開催された。

     分科会では最初に、先史考古学が専門の山形大学人文学部坂井正人教授から、「ペルー共和国における発掘調査:調査許可・遺物の持ち出しをめぐって」と題して、話題が提供された。ペルーの北部にあるリモンカルロ遺跡と、南部にあるビルカバンバ遺跡、ナスカの地上絵の3カ所での調査について、ペルー政府の定める調査許可の取得手続きに変更が多いことや、遺物持ち出し規制が厳格に課されている点などが報告された。近年の調査許可手続きの変更のなかで特に問題になったのは、「リセンシアード(Licenciado)」と呼ばれる考古学者としての登録制度である。2000年以降は発掘調査の際、事実上この資格をもつペルー人考古学者との共同調査の形をとる必要が出てきた。2006年には規制が緩められたものの、登録要件が再び復活される可能性も高い。また調査を進める上で必要な行程として、調査期間中はペルー文化庁による発掘現場の査察が入ることや、発掘した遺物と報告書の提出が義務付けられている点も説明された。遺物の持ち出しについては、年代測定用のカーボンなどに限られ、土器や織物などは事実上持ち出し禁止となっているとの事情が示された。

     調査を取り巻く環境としては、治安面と、調査者の健康管理の問題が取り上げられた。治安面では、近年に入ってペルーの市街地は安定しているが、アマゾン低地ではテロなどの危険があると報告された。健康管理の問題では、留学先から調査に参加した学生の例が挙げられ、こうした場合でも海外旅行保険への加入を事前に確認しておくことの重要性が指摘された。保険に関しては、続く意見交換の時間でも活発な情報のやり取りが行われた。急峻な山地や極地での調査に際しての保険加入の問題が取り上げられたほか、学生および大学教員が海外で安全に調査を行える体制を整えるために、科研費では拠出されない保険料を大学として負担することの有効性などが話し合われた。安全確保の手段としては、衛星携帯電話の使用についても言及された。海外旅行用にレンタルされる衛星携帯電話は、通常の電波が届かない地域で連絡手段を確保する上で有用である。しかし基本料金だけでも高額なことから、公費での負担などの可能性が提案された。

     質疑では、ナスカの地上絵等での調査内容にも話が及び、各国の調査団相互の関係や、地上絵のしくみ、観光資源として遺跡が果たす役割などについても意義深い報告がなされた。


    文中敬称略(報告:錦田 愛子(AA研))