海外学術調査フォーラム

  • ホーム
  • next_to
  • 過去のフォーラム
  • next_to
  • 2008年度
  • next_to
  • I 大陸部東南アジア
  • I 大陸部東南アジア

    座長河野 泰之(京都大学東南アジア研究所)
    床呂 郁哉(AA研)
    話題提供者星野 洪郎(群馬大学医学系研究科)
    タイトル「タイにおけるHIV感染症に関する疫学的な研究の実施について」

     大陸部東南アジア分科会では、群馬大学の星野洪郎氏からタイにおけるHIV感染症の調査について話題提供が行われた。タイでは7-80万人が感染していると言われ、北タイの感染率が特に高かった。しかし、国が薬の供与や検査を行うことにより現在感染率は下がってきており、途上国ではHIV対策がうまくいっているという。星野氏はチェンマイ大学と共同研究を行っており、共同研究者からさまざまな便宜をはかってもらえるという。

     調査は抗酸化剤のHIV-1感染への影響を、被験者にお茶の抽出物や鮭のアスタキサンチンを投与し、それによりウィルスの量が減るかどうかを調べるもので、チェンマイ大学医学部、ランパン県ランパン病院で、3箇月投与して血中のウィルス量を測る。この他、チェンマイ大学との交換留学も行っており、5年生の学生5名ずつが1週間程度互いに留学しているという。

     星野氏の実際の調査手続きは、他の参加者と共通する問題も多く、活発な質疑応答が行われた。医学的調査に必要な、倫理委員会の承認については、群馬大学がチェンマイ大学で申請しているが、アスタキサンチン安全であることの証明など細かい項目がある。これには日本の食品基準を翻訳して提出するなどの方策をとっているという。また、被験者へのインセンティブとしての礼金の問題や、タイから資料の持ち出しについても議論となった。原則として資料は大学・国としての方針にそって許可を得ないと持ち出せない。

     他の参加者からは、例えばベトナムの土壌などは持ち帰りが困難なので現地で分析してもらうシステムがあることや、蝙蝠など輸出入禁止となっているものについては、細胞レベルでは持ち帰りが可能であること(形が蝙蝠でなければいい)などが紹介された。またタイの調査許可を担当するNRCTは、申請する規則はあるけれど、つつかなければなかなか許可が出ないといった事例が報告された。

     大陸部東南アジアでは、さまざまなテーマが出され、このことからも激動する東南アジアの現状に日本の調査者もかなり対応しているようだという座長の河野氏のコメントで、有意義な分科会は締めくくられた。

    (報告:西井 凉子(AA研))