海外学術調査フォーラム

VII アメリカ大陸

話題提供者 西田 治文(中央大学理工学部)

「南米パタゴニアにおける白亜紀後期以降の植生および気候変遷と最近の現地調査事情」


 Cono Sur (南の三角錐地帯)と称される南米南部は、同時にパタゴニアとも呼ばれ、独特の生物相と風土を見ることができる。特に、植物相は南北を縦断し、チリ/アルゼンチンの国境も形成するアンデス山脈によってもたらされる降水変化によって、東西に異なる相観が形成されている。多雨となるチリ側には温帯降雨林が発達し、寡雨であるアルゼンチン側では乾燥草原が卓越する。チリ側の温帯林は、北上するにつれて構成種が多様化し、およそ南緯45度を境にして北にバルディビア型と呼ばれる多様性の高い森林が、南には亜南極落葉樹林と呼ばれる優占種の少ない森林が発達する。しかし、これらの温帯林にはナンキョクブナ属が優占することは共通しており、さらにフトモモ科、ヤマモガシ科、マキ科、ナンヨウスギ科などが加わる。パタゴニアの温帯林は、一方でオセアニアの一部に見られる温帯~熱帯林の組成と酷似しており、その理由として古生代末から中生代末まで南半球に存在したゴンドワナ超大陸時代に共通した植物地理分布が起源として存在し、それが大陸の分離に伴い分断されるとともに、オセアニアと南米を連結していた南極の植生が寒冷化により消滅したという仮説が定着している。

 発表者の一連の研究は、南米南部の現植生の成立過程に関する上記のような仮説を検証するために、チリ南部における白亜紀後期以降の化石フロラを探索し、その組成を解明するとともに、植物化石から得られる環境情報によって、同地域における環境の時空変化を詳細に明らかにすることを目的としている。同様の課題は世界的にも興味が持たれており、隣接するアルゼンチンと南極における情報は増加している。しかし、チリでは研究が遅れており、発表者による研究は、これらの研究を補完し、南米南部の植生と環境変遷を総合的に理解する上で不可欠である。

 これまでの調査でいくつかの新産地を発見するとともに、南米最古のナンキョクブナの葉化石発見、南米で最初の浅海性炭酸質ノジュールに含まれる有組織化石植物群の発見などの成果を挙げている。

 最後に、調査にともなうチリ国内での各種許可申請や留意点をまとめた。南米特有の時間的予測の難しさは常に伴うが、チリの申請手続きや許可内容は信頼に足るものである。

 なお、本発表は以下二件の学術調査に基づくものである。

「南米南部における白亜紀以降の植生変遷の解明」(研究代表者 西田治文 no.14255007)

「南米中南部における古第三紀以降の植生変遷と地球科学的変動に関する研究」(研究代表者 西田治文 no.18405013)

参考資料:
Post-Cretaceous Floristic Changes in Southern Patagonia, Chile. (Nishida H. ed., Chuo University, Tokyo, 114pp.)
http://www2.chuo-u.ac.jp/tise/research_new/personal/biology/nishida.html