海外学術調査フォーラム

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  • Ⅴ 北ユーラシア・中央アジア・極地(含ヨーロッパ)
  • V  北ユーラシア・中央アジア・極地 (含 ヨーロッパ)

    座長本山 秀明(国立極地研究所)
    近藤 信彰(AA研)
    話題提供者白岩 孝行(総合地球環境学研究所
    タイトル「アムール川とオホーツク海・親潮域のつながり
      -日中露共同プロジェクトから-」

     ヨーロッパ,中央アジア,極地をフィールドとする様々な専門の研究者10名の参加を得て,活発な情報交換が行われた。

     話題提供者として,白岩孝行氏(総合地球環境学研究所)を迎え,ご自身がプロジェクトリーダーをつとめるアムール・オホーツクプロジェクトを中心に「アムール川とオホーツク海・親潮域のつながり-日中露共同プロジェクトから-」というテーマでお話いただいた。

     プロジェクトの調査地域は親潮と黒潮のぶつかるところで,植物プランクトンが世界中でもっとも多い地域である。これらの海域で夏期に植物プランクトンの生産を制限している要因は「鉄」であり,親潮域が豊かなのは,アムール川から鉄がもたらされるためであるという仮説を立て,調査を行っている。

     調査では川と海のクルーズ調査によってアムール川から大量の鉄が輸送されていることが明らかになった。しかし流域の調査では,鉄をもたらすもととなる森林や湿原が,耕作化や森林火災のために失われつつあることも明らかになった。耕作化の背景としては,東北部での稲作推進が要因となっている。ある国の国策での食糧増産が別の国の海に影響を与えているという現状をどのように乗り越えていったらよいのか,今後考えていかねばならない難しい問題である。

     このプロジェクトは,ロシア科学アカデミーと中国科学院と連携して進めているが,時に共同研究が遅滞する原因として,現地調査の許可や試料採取許可,資料輸出許可,研究委託契約などの難しさがある。特にロシアの場合,手続きが極めて煩雑,毎年何らかの変更があり経験の蓄積が役立たない,などがある。プロジェクトの成功は,共同研究相手の行政手腕にかかっている。ロシアの場合は委託研究という形をとって切り抜けているのが現状である。研究契約を行って費用は日本から振り込むようになったため,大量の現金を持ち歩く必要がなく,会計も明確化されたことは利点である。

     報告終了後の懇談の場では,試料・資料の持ち出しの難しさや,ロシア,特に極東地域での物価高騰による資金面での困難は,いずれの国際共同研究プロジェクトでも共通した問題であることがわかった。


    (報告:星 泉(AA研))