海外学術調査フォーラム

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  • II 島嶼部東南アジア・太平洋
  • II 島嶼部東南アジア・太平洋

    座長徳留 信寛(名古屋市立大学大学院医学研究科)
    梅崎 昌裕(東京大学大学院医学系研究科)
    話題提供者遅澤 克也(愛媛大学農学部)
    タイトル 「島嶼部東南アジア・太平洋の海外学術調査に関する諸問題について-チンタラウト(海の恋人)号による帆走航海の経験から-」

     島嶼部東南アジア・太平洋分科会では愛媛大学の遅澤克也氏から「島嶼部東南アジア・太平洋の海外学術調査に関する諸問題について-チンタラウト(海の恋人)号による帆走航海の経験から-」と題する話題提供が行われた。遅澤氏はスラウェシとその周りの島で主に森林調査等を行っている。このような調査を進める上で必要不可欠である船を自前で造り、維持・管理を行った経験を紹介した。船は在来船を利用して造り、普段はマカッサルの港に入れている。料理人を乗せることで船中での食事や宿泊を可能にした他、電源を確保してパソコンも使えるようにした。また、船倉はひとつの部屋にすることで、船に乗っている研究者・学生や地元の人々との意思疎通を容易にした。船ができてからまずしたことは、近隣の島々への挨拶回りであり、調査への協力や、航海の安全に関して便宜を図ってもらうようお願いした。これは、最大のセキュリティーは知り合いを各地に作ることだという考えからのことである。

     自前の船による調査を通じて現地社会との関係をより密接にすると同時に若手研究者を育てるという、海外学術調査「実践派」からの報告は参加者の興味を集め、活発な質疑応答が行われた。遅澤氏の「スラウェシというのは島ではなく陸であり、ここからもっと行った先にある離島が島である」という主旨の発言は、海域世界を研究する者としての姿勢を物語っていた。

     分科会後半は、海外学術調査を行うにあたっての共通の問題について質疑応答が行われた。まず話題になったのはインドネシアからの生体試料の持ち帰り方で、具体的にはドライアイスの輸送が現在でも可能かどうかという問題だった。2001年9月11日のテロ以降、ドライアイスなどを運んでくれる航空会社が少なくなり、FedEx、DHLはもとより最近ではガルーダ・インドネシア航空もドライアイスを受け付けなくなっているということであった。これに関する抜本的な解決策は示されなかったが、研究分野によっては試料を現地で固定してから持ち帰るという方法も可能であるという。

     その他、学振と各大学事務の方針の相違、調査に同行する大学院生の危機管理(海外旅行傷害保険加入など)、間接経費の位置づけ、測定機材持ち込み方法、調査許可取得方法、良いカウンターパートの見つけ方など、調査の実務に関する具体的かつ切実な問題が話し合われた。


    (報告:新井 和広(AA研))