海外学術調査フォーラム

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  • VII アメリカ大陸
  • VII アメリカ大陸

    座長木村 秀雄(東京大学大学院総合文化研究所教授)
    伊藤 元己(東京大学大学院総合文化研究所助教授)
    話題提供者海老原 淳(国立科学博物館植物研究部)
    タイトル「南半球におけるシダ植物調査~南チリのコケシノブ科~」

     本年度におけるアメリカ大陸分科会での情報提供者は一名であり、国立科学博物館・植物研究部の海老原淳氏が、「南半球におけるシダ植物調査~南チリのコケシノブ科~」と題する情報提供を行った。まず最初に、自らの研究領域であるシダ植物の種類と分布に関する簡単な説明がなされた。それによると、胞子で増えるシダ植物は一般的に言って分布範囲が広く、国際共同研究が不可欠とのことである。海老原氏はその中でも「コケのようなシダ」であるコケシノブ科について研究しており、これに関しても写真を交えて概要、分布の偏り(南半球に多い)、起源等についての説明がなされた。話題提供の後半は、海老原氏自身によるチリ南部・チロエ島へのシダ採集調査旅行の準備・行程・成果に関する詳細な報告であった。それによると、旅行前には50~100年前の古い標本に基づく乏しい産地情報しかなかったにもかかわらず、最終的には2週間の調査で目的とするコケシノブ科シダ全種の採集に成功したとのことである。その後、採集した材料の運搬方法、国際的な共同研究の概要を説明して話題提供を終えた。

     この話題を受けての質問は、主に調査許可取得に関する諸事情と国際共同研究の実際についてであった。それによると、コケシノブ科に限定すれば国際共同研究は研究者個人のレベルの話であり、その点でネットワーク構築は比較的容易であるが、シダ植物全体をカバーするのであればもう少し上のレベルでの組織作りが必要となるとのことであった。調査手続きに関する話題で特に興味深かったのは、動植物の持ち出し・持込制限や調査許可の取り易さが南米各国で違いがあるという話であった。調査許可に関しては、チリは割合スムーズにいくがブラジルは非常に厳しく、これは遺伝子を資源と捉えているために起こっている現象であるとのことである。これは動植物に限られたことではなく、固有の文化に関する情報も外部への公開が制限されることがあるとのことであった。

     その後の議論は、化石、遺伝子解析、花粉、動植物の新種はどこでも(例えば日本の大学構内でも)見つけることができるという話、情報収集の拠点、専門家育成の問題点等、多少本筋から逸れた部分もあるが、少人数でざっくばらんな話ができたことは有益であった。また、分布範囲が広く国際共同研究が欠かせないシダ植物研究は、総括班フォーラムにふさわしい話題であったと言えよう。


    (文責:新井 和広)