海外学術調査フォーラム

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  • Ⅴ 北ユーラシア・中央アジア・極地(含ヨーロッパ)
  • V  北ユーラシア・中央アジア・極地 (含 ヨーロッパ)

    座長本山 秀明(国立極地研究所助教授)
    飯塚 正人(AA研助教授)
    話題提供者1高橋 修平(北見工業大学工学部教授)
    タイトル「シベリア・アラスカの氷河調査」
    話題提供者2香川 靖雄(女子栄養大学栄養学部教授)
    タイトル「モンゴルとモンゴロイドの遺伝子・栄養・医学研究」

     北ユーラシア・中央アジア・極地(含むヨーロッパ)分科会は、他の6分科会に比べて扱う地域が広大なうえ、気候や生態系ばかりか、現地調査に関わる制度や人々の文化も多様極まりないといった問題を抱えている。極地調査者にとって中央アジア調査にまつわる話題が必ずしも有益とは限らないし、逆もまた真であろう。そうである以上、いっそ話題提供などやめてしまって、ざっくばらんに意見交換を行う方が参加者にとっても得るところが大きいのではないか……分科会の準備段階で座長2人を悩ませたのはまさにこの点であった。

     だが、結果として当分科会は全分科会中唯一、話題提供者2名を立てることになる。対象地域が広大・多様で、大半の参加者が初めて顔を合わせるため、自由な意見交換だけでは、逆にそこで提起された調査地固有の問題を解決する糸口すら見出し得ない危険があると思われたこと、また高橋修平北見工業大学教授という得がたい候補者に話題提供をご快諾いただいたことが大きかった。加えて、本分科会への参加を予定されていた香川靖雄女子栄養大学教授からは、モンゴルのムルン地区での医学、遺伝子、栄養調査について話題提供してもよいとの有難いお申し出をいただく。こうした幸運に恵まれた結果、当初座長2人を悩ませた話題提供の是非をめぐる問題はまったくの杞憂に終わり、極地と北ユーラシア・中央アジアそれぞれに有意義な話題提供を得ることができた。

     高橋教授による話題提供「シベリア・アラスカの氷河調査」では、氷河調査に必要なヘリコプターなど、インフラをめぐる米露両国の違いや極地の厳しい気候との戦いの様子、また投下した機材が壊れたときの人力による代替作業などが紹介される一方、ヒトの住む場所では気温計測のために設置した温度計が子供の“宝探し”の対象になってしまって計測不能に陥るといった当該調査に特有の問題も報告された。

     また「モンゴルとモンゴロイドの遺伝子・栄養・医学研究」と題された香川教授の報告では、食の欧風化でアジアにおける糖尿病・心臓病・脳梗塞が激増しているため、モンゴロイドとコーカソイドの食事や遺伝子の違いを解析し予防に努める必要があるものの、日本では医薬の使用が多く(70歳代の約半数は降圧剤を服用しているとのこと)十分な解析ができないことから、無投薬で長期の伝統肉食を続けるモンゴルで調査しているという背景説明の後、日本人より平均寿命が17歳短いモンゴル人の血清コレステロール等が意外にもアジアで最も低いこと、他方おそらくは野菜・果物の摂取が極度に少ないせいで血中の抗酸化物質が少なく、これが平均寿命の短さに関係していると思われることが報告された。

     以上2つの話題提供を受けた結果、分科会に割り当てられた2時間は瞬く間に過ぎ去り、座長としては、自由な意見交換の時間が不足したのではないかと危惧したものの、特にこの点についての不満は聞かれなかった。また、事後アンケートで本分科会への参加者11名全員が「話題提供者は必要」と回答したことに象徴されるように、参加者の満足度も高かったようで、今回の当分科会は成功裏に幕を閉じたと言える。お二人の話題提供者に心から感謝の意を表したい。


    (文責:飯塚 正人)