海外学術調査フォーラム

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  • 連続ワークショップ 『フィールドサイエンスと超域的ネットワーク』第一回 講演1

    「海外調査は人次第-よいカウンターパートは巨額研究費にも勝る-」
      佐藤 洋一郎 (総合地球環境学研究所所長)

    <要旨>

     海外調査の成功のかぎは「人」がにぎっていると思う。私は25年にわたり、東南アジアを中心にイネとその近縁の植物、とくにイネの原種である野生イネの調査にあたってきた。研究の手法は、まず野生イネが生える現地をおとずれ、さまざまな生態学的な調査をおこなったうえで種子を収集し、それを栽培してさまざまな遺伝学的な調査をおこなうというものである。種子は貴重な遺伝資源なので、現地の研究者と折半して残りは植物防疫のルールに沿って日本に持ち帰る。遺伝学的調査は、調査を始めた当初は形態や酵素のタイプが中心であったが、いまではDNAの調査が主体である。また、DNAの調査ができるようになって、種子がなくとも葉や茎の一部があれば必要なデータがとれる。

     ある国のどこに野生イネがあるか、などの情報を得るには、その国の研究者コミュニティとの間の信頼関係が必要である。私のチームにはもう25年付き合っている現地のカウンターパートがいる。彼はしばしば日本を訪れ、博士号も日本で取得している。

     最近は遺伝資源の権利についての考え方の変化から、収集した遺伝資源を国外に持ち出すことがむずかしくなってきている。そこで遺伝資源を持ち出さない方向で研究を進めるよう、軌道修正した。つまり調査、種子の収集ばかりか、収集した遺伝資源の遺伝情報の分析も現地でおこなう。その技術も調査班が伝授した。

     イネは、一般常識に反し、多年生で他家受粉する。だから現地の種子を少量持ち帰っても、それが元の集団の遺伝的な性質を反映しているとは限らない。そこで、野生イネの栄養体(茎など)をどこかに保存していく必要が生じた。野生イネを日本で栽培するのは冬の温室などが必要で、経済的ではない。そこで数年前から、タイの農業局と連携し、アジア各地の野生イネ資源をバンコク郊外の研究所で預かってもらうことにした。これにも、先方のカウンターパートの助言と努力があった。

     最近は、野生イネの自生地を保存する「自生地保存」が注目されている。野生イネが生える現地の生態をそのまま保全するもので、現地の研究者のみならず地域の人びとの協力をも必要とする。私たちはタイとラオスにこの自生地保護区をもっているが、その立ち上げ、維持管理には現地の人びとの努力があった。私たちのこうしたフィールドでの仕事には、やはり「人」が欠かせないのだと思う。