海外学術調査フォーラム

VI アフリカ

座長市川 光雄(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授)
栗本 英世(大阪大学大学院人間科学研究科教授)
話題提供者太田 至(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・教授)
田代 靖子(京都大学霊長類研究所・研修員)

  1. 話題提供(1)
  2. 太田至(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・教授)
    「日本学術振興会ナイロビ研究連絡センターの現状について 」

    ナイロビの研究連絡センターは、1965年以来、のべ66人の研究者を駐在員として派遣し、東アフリカで海外学術調査に従事する研究者に対する支援・便宜供与を行ってきた。昨年度の1年間だけで、センターへの訪問者はのべ472人、業務に関するメールや電話、FAXなどによる連絡が650件に達する。
    研究連絡センターの主要な役割として、以下の六つがある。

    • ケニアにおける調査許可書取得に関わる便宜供与:
      教育科学技術省に対して調査許可申請のためのサポート・レターを発行。通常は、3日程度で許可が下りる。これまで、歴代の担当官僚との信頼関係を築いてきたことが大きい。
    • 現地調査者の事故・病気等への対応:
      3年前には島根大学の教授が交通事故死するということが起きる。病院や警察への連絡・交渉、遺族の現地入りの手配、遺体搬送等で重要な役割を担う。そのほか、危機管理マニュアルを配布し、調査者の安全を確保する情報提供を行っている。
    • 調査資料の保管・整理のための場所の提供、学術雑誌・地図・パソコン・辞書等の提供:
      とくに若手の院生等が、長期のフィールドワークを行う際、滞在中に調査データ整理・保管するときに利用している。
    • ケニア日本人社会への貢献:
      2ヶ月に1度、学振セミナーを開催。日本人研究者などに講演を依頼する。JICA職員や青年海外協力隊員等を含め、多数の日本人が参加する。
    • ケニアを含めたアフリカ諸国と日本をつなぐ窓口機能:
      センターを活用しながら、さまざまな研究者の交流が促進されるだけでなく、アフリカ研究者との情報交換などによって、研究プロジェクトを支える重要な役目を担っている。

    以上のように、ナイロビの研究連絡センターは、アフリカで調査活動を行う日本人研者を支援するだけでなく、さまざまな重要な役割を果たしており、今後とも積極的な活動の継続が期待される。 また、フロアーの参加者から今後の研究センターの活動についての質問や意見が相次ぎ、これからも研究センターを存続させていくことの重要性と意義について強い合意に達した。


  3. 話題提供(2)
  4. 田代靖子(京都大学霊長類研究所・研修員)
    「コンゴ民主共和国(DRC-旧ザイール)の最新情報」

     1973年以降、旧ザイールのコンゴ川流域にひろがる熱帯多雨林に位置するワンバ村を拠点として広域的にボノボ(ピグミー・チンパンジー)の研究が行われてきた。ボノボの調査研究は、チンパンジーやゴリラととも、アフリカにおける大型類人猿の研究の柱として重要な役割を果たしてきた。しかし、政情の不安定化や内戦の勃発などで90年代中期以降、調査活動は中断していた。2003年になって、ようやく研究者の訪問が可能になったが、全面的な再開には至っていない。今回は、2005年1月から3月までの滞在から、コンゴ民主共和国の現状に関する最新情報を報告する。

     今回は、首都のキンシャサで準備を行い、ワンバ村周辺に40日滞在した。キンシャサは、しばしばデモや強盗事件が発生しており注意が必要だが、日常的には平静を保っている。しかし、デモが行われるという情報が流れると、商店が閉められるなど町中の機能がストップする。

     ワンバ村までは、かつてはボエンデまで空路で、そこから車で移動していたが、道路状況が極めて悪いため、今回はキンシャサからジョル(Djolu)までチャーター機で移動し、そこからワンバに向かった。

     ワンバ村周辺では、2群のボノボを観察できた。ただし、かつて幼かったボノボが成長していたこともあり、個体識別は困難。DNAを採取して、確認することにする。観察した2群については、個体数は変わらなかったが、遊動域が大きく変化していた。95年には6群がいたが、現在は、2群以外は、遠くへ移動、数も減少しているという。内戦当初から、村人が兵隊をおそれて森のなかに入り、開拓をはじめた。ランドサットの衛星画像からもワンバ村周辺の一次林に焼畑が広がっているのがわかる。また、他地域では、2002年にボノボの生息域の樹木の伐採権が伐採会社に売られたため、森林の伐採が進んでいるという。また、密猟も行われ、ワイヤーの罠がしかけられ、それで怪我をしている個体も確認。キンシャサのボノボの孤児院には、運び込まれる頭数が急増している。

     村では、教会が引き上げたこともあり、教育・医療などの質が低下し、ほとんど機能していない。また道路状況が悪く、車を動かす人がいなくなり、換金作物であるコーヒーの販売ができなくなる。内戦の終息によって、村から逃げていた人が村に戻る一方で、若者を中心にキンシャサなどに流出する者も増加。村では男性の数が少ない状況。こうした村の状況が悪化していることもあり、研究者に対する要求が激しくなっている。とくにCongo Basin Forest Partnershipの巨大なファンドが周辺地域に入ったことで、「鉄橋をつくれ。そうでなければ二度と来るな」という要求まであり、調査活動を継続するうえでの支障になっている。

     フロアーからは、ビザ取得や旅行許可などの調査を進めるうえでの手続きについて質問があった。ビザは在日の大使館が発行しており、旅行許可も森林科学省の研究所から出張命令書というかたちでレターを出してもらえる。キンシャサの日本大使館は機能しているが、調査地までの移動や機材の運搬手段がないことなどが説明された。旧ザイールでは、70年代80年代にかけて、多くの日本人研究者が調査を行っており、今回は、10年ぶりの再訪ということで貴重な報告になった。


  5. 科学研究費執行についての質疑応答

    【質問】海外旅費の支出について「最低額」とあるが、エコノミークラス以外は利用できないのか?

    【答え】研究遂行上、どうじても必要ということが証明できれば(他の便が利用できない等)、とくに問題ない。ただし所属機関の規定があるとしたら、あとは機関の判断にまかせる。

    【質問】100万円をこえる調査機材を調査期間中だけでも現地に保管しておきたいが、可能か?

    【答え】毎年、持って帰ってくる必要はない。設備年限である5年は、誰かが常駐しているなど管理責任を果たしており、それが会計検査のときに説明できればよい。たとえば、現地の研究機関に管理を委任し、調査期間の終了後に大学に寄付。大学が現地機関に寄付するということも可能。あとは、機関の判断。

    【質問】それでは、車を設備品として購入し、現地で管理させることは可能ではないのか?

    【答え】車の場合、調査機材とは異なり、研究だけに使用するということが明確でない。研究の範囲を超えて使用されるおそれがある。それで、レンタカーにするよう求めている。

    【質問】研究協力者への謝金は、研究分担者が現地にいる期間しか払えないのか?

    【答え】誰もいないときに、誰かがきちんと監視しているなど、きちんと業務を行っている根拠を説明できればよい。ある一定の情報収集に対して謝金を払うというかたちで契約して、その情報提供に対して謝金を払うことは可能。

    【質問】日本でも、土日や出張中など研究代表者・分担者等がいないときは大学院生などに謝金を払えないことになっているが、土日にしか払えない場合はどうするのか?

    【答え】とくに土日だから謝金を払えないという決まりはない。それが研究遂行上、どうしても必要であって、きちんと業務を行っていることが説明できれば問題ない。

    【質問】じっさいに科研費の不正使用はどの程度、起こっているのか?

    【答え】昨年度で10件未満、人数は80名未満くらいだったと記憶している。会計上、数億円の返還をもとめている。とくに、年度をまたいだ物品の購入などが多い。この場合、業者の納品伝票と大学側の伝票の日付が調べられ、それが年度をまたいでいれば、問題は明らかになる。分担者・代表者のなかで一人でも不正使用がみつかれば、全員が連帯責任を負わされ、数千万円もの返還が求められたケースもあるので、十分に注意してほしい。