海外学術調査フォーラム

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  • Ⅳ 北ユーラシア・中央アジア・極地 (含ヨーロッパ)
  • Ⅳ 北ユーラシア・中央アジア・極地 (含ヨーロッパ)

    座長岩坂 泰信(名古屋大学大学院環境学研究科教授)
    山村 理人(北海道大学スラブ研究センター教授)
    情報提供者原 圭一郎(国立極地研究所)
    新免 康(中央大学文学部史学科教授)

     参加者は15名であった。昨年までの地域の括りと少し変わったので参加人員の増減を比べることはあまり意味が無いが、情報の交換と言う点では適切規模と言うべきであったろう。各自の自己紹介と抱えている問題点を出し合うことがやや余裕を持って出来た。

     情報提供者として、原 圭一郎氏(国立極地研究所)と新免 康氏(中央大学)を迎え、それぞれ北極圏での航空機を使用した大気観測の状況、中央アジア諸国における最近の現地事情について報告いただいた。

     原氏の報告では、北極圏での大気観測の経験に基づき、極地のような身体的危険にさらされる地域での調査では、安全確保のための事前の訓練などの徹底した準備作業が重要であることが強調された。また、航空機を使用するような大型化した観測調査では、小規模調査とは異なった問題点(たとえば航空機使用許可や航空機搭乗者資格に関係するものなど)があり、それらに対処するために少なくとも1年前からの調査準備が必要なことが述べられた。

     新免氏の報告では、中央アジア3カ国の境界が接しイスラム原理主義運動の盛んで危険地域とされているフェルガナ盆地での調査旅行の経験に基づき、調査許可の取得の問題、車の確保など陸路での移動に伴う問題、現地の治安・社会状況、現地研究機関との協力の問題などが話された。質疑応答の中では、調査許可を得る手続き・規則が半年もすれば大変わりして、そのため現地で調査が実施できなかった隊があることなどもとりあげられ、中央アジアではビザや調査許可取得、現地での外国人登録の問題に細心の注意を払うことが確認された。この種の問題は、これという特効薬はなさそうではあるが、パートナーになってくれる研究者の力量にも大いに拠っているので、よき相手を見つける事が必要である。

     分科会でもっとも多く出された問題点は、試料・資料の持ち出し(あるいは日本への持込)に関するものであった。持ち出しが禁じられているものについては、如何に学術価値を損なうことなく現地で必要最低限の情報を得るかが話題になったが、古くて新しい問題でありいろいろなケースについておたがいに連絡しあってノウハウを積み上げる以外に手はなさそうに見える。日本への持込については、植物の学術名が特定できないために国内に持ち込めなかった例が出されている。学術調査対象となっているものは、本来的に未知の部分が多いものであるため、このような処理のされ方では半永久的に日本で持ち込んでじっくり調べる事が出来ないようにも思える。似たような状況にある研究者の声を組織的に集める必要があるのではないかと思われる。

     そのほか、中央アジアやロシアに入る予定の参加者の中では、治安状態(警官を見たら言いがかりをつけられないように注意せよなど、およそ日本では想像出来ない状態もある)、協力者への謝金の適正価格(さらには渡し方)などが話題となった。これらは、分科会で知り合った先生方同士で情報を交換し合いながら調査・研究をつづけていただく中で解決できるものが多いのではないかと思われる。


    (文責:岩坂 泰信、山村 理人)