海外学術調査フォーラム

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  • Ⅲ 南・西・中央アジア・北アフリカ分科会
  • Ⅲ 南・西・中央アジア・北アフリカ分科会

    座長長野 泰彦 (国立民族学博物館)
    報告者黒木 英充 (東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

     上記地域の分科会は、長野泰彦教授(国立民族学博物館)を座長として開かれた。出席者14名、欠席者6名であった。情報提供は、南アジアについて麻田豊教授(東京外国語大学)、西アジアについて竹田新教授(大阪外国語大学)にお願いした。

     今回の分科会の地域分けについては、南アジアの東南アジアとのつながりを重視したり、また南アジアから東の地域にかけて広がる地域を調査対象としたりする方々から不適当ではないかとの意見があった。しかし、「地域」が確たる境界を一義的にもつものではない以上、いかなる区分けをしても、常にわれわれは同じ問題に向かい合わざるをえないのであろう。東南アジアの分科会とかけもちで参加した方も見られた。

     インド・パキスタンの言語・文学・イスラームを専門とされる麻田豊教授からは、近年のパキスタンを中心とした南アジアにおける原理主義的運動の活発化、核実験やカシミール地域をめぐる国際的緊張についての簡潔な紹介の後、自身の現地調査活動に際して留意する点などについての説明がなされた。宗教的祭礼の時期をめぐる調査時期の設定、現地研究者との事前コンタクト、在外公館からの便宜など、諸問題についての説明に加え、特に初めて調査に従事する研究者のために有益な情報源として、米国議会図書館の各国研究 (Country Studies) ホームページの紹介があった。アドレスは次のとおり。
     http://lcweb2.loc.gov/frd/cs/cshome.html
     これを参照すれば、調査対象国に関する基礎的情報はほぼ網羅できて、非常に便利であるとのこと。

     イスラーム地理学・アラブ文化研究を専門とされる竹田新教授からは、サウジアラビアにおける1993年から95年にかけての長期滞在、および近年の短期調査の経験に基づいた説明がなされた。同国において、イスラーム以前の時代の遺跡が数多く放置されたままである現状や、発掘など現場にかかわるサウジアラビア人研究者の人材育成の問題、社会におけるイスラーム規範の厳格な適用がもたらす調査実施上の諸問題などが指摘された一方、地質学や生態学、考古学などの分野における未開拓の研究資源の宝庫であるとの紹介もなされた。また、上記の人材育成の面で、日本が学術的協力をなしうるのではないかとの展望も示された。

     上の二報告に関する質疑応答に加えて、一般的・技術的な調査をめぐる議論では、年度の変わり目をまたいだ期間で海外調査が可能であるか、といった点などが問題とされた。

     本分科会が対象とする地域は、現在、大きな政治的・社会的変動が見られる国々を多く抱えており、そうした変動自体が調査研究の対象となることは言うまでもないが、また一方で、場合によってはその変動が現地調査の障害となりうることもまた事実であろう。流動する事態の推移に、常に意識的であることの必要性が再確認された会合でもあった。


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