海外学術調査フォーラム

Ⅱ 中国分科会

座長岩坂 泰信(名古屋大学太陽地球環境研究所)
報告者岩坂 泰信(名古屋大学太陽地球環境研究所)

 中国はこれまでにも多くの人が入っており、比較的情報はあるように考えられたが、総括班では、次第に中国の西部や南部に入る調査グループが増えていることや、この地域の治安状況は必ずしも一定しておらず最近の情報を整理しておく必要があろうとの意見が出され、そのような事情をもとに今回の分科会が設定された。

 最近では、この地域に入る調査隊の研究分野も次第に多様性を帯びており、資試料の収集を大々的に行なう、あるいは大がかりな装備を持ち込んで運用することがしばしばある(自然科学系に多い)などの傾向も顕著になってきているため、それらを考慮して報告者には田島和雄先生(愛知県がんセンター研究所・疫学部長;総括班員)と甲斐憲次先生(名古屋大学人間情報学研究科・助教授)にお願いした。

 分科会の参加者を見ると、これまで多くの調査隊を出してきた機関やグループの活動から予想されたものとは異なって、中国に入ることがまったく初めて(しかも周辺で必要な情報を得ることが出来なかった)というグループがかなりあった。このために、一般的な問題(通貨の交換、クレジットカードの使用可能性、入国審査は厳しいのか、通関は厳重にやるのかなど)についても比較的時間を取って討議がなされた。

 報告のなかでは、我々が今後留意しなければならない事項として挙げられたもののうち(ベテランといえども)重要と思われるものを記しておきたい。

 第1のものは、試料の取り扱いと研究成果の公表に関するものである。文字情報であれば比較的持ち出しについても難しいところはないが、例えば血液あるいは土壌など、研究者個人としては日本に持ちかえって分析するのが望ましいと判断されるものの持ち出しについて次第に制限がきつくなっており、研究至上主義でものごとを処す時代にないという点である。また、研究成果の公表についてもいろいろな点に留意し研究のパートナーの貢献を無にするようなことは厳に謹むべきであろう。田島先生等のグループでは、筆頭著書を中国側から(試料の収集作業、分析作業、取りまとめなどのかなりの部分を日本側がやったと感じる仕事でさえ)出すというようなこともしばしばあるとのことであった。

 第2の点は、研究の大型化にともなって生じる種々の取り決め事項の増加である。研究の規模が小さいときには当事者どうしの意思の疎通をはかっておれば大過ない。大型化するにつれて研究の管理といった面での問題がクローズアップしてくる。研究協定の取り決めも、高度に政治性を帯びてくる局面もしばしばある。現地での研究補助員の雇い上げについても、時間当たりの謝金をあらかじめ打ち合わせる必要はもちろんのこと、研究補助とみなされる行為の範囲、指示・命令系統の明確化、行動中の事故に対する補償の仕方などこまごました点まで取り決めが必要になる。このような点について、甲斐憲次先生に自身で携わった日中共同プロジェクトを例にとって報告してもらった。この種の問題も今後次第に増えてくると考えられる。日本側でも、十分経験を積んだ研究者でしかもこの種の対応がしっかりできる人材を意図的に育ててゆく必要を感じた。


▲このページのTOPへ