展示品
87 ベカー(コレ・シリの谷)
 その限りない広さの殆どを一望に収めるこの地点が,ベカー,つまりコレ・シリ平原の南端であると見なすことが出来る(図版87)。2つのレバノン山脈を隔てる大きな谷は一般にはカラアト・アッ=シュキーフとバーニヤースの間から始まると言えるだろう。しかし同じような高い丘の列がベカーを分割しており,或る丘はレオンテス峡谷とハースバーニー峡谷を隔て,また他の丘はベカーを斜めに横断している。このような寸断はカーミド・アル=ラウズで終わり,ベカーは一見したところ石化した広大な海という印象を与えながら北東に向かって20里の間続いている。平原にはかなり人が住んでいるにもかかわらず,集落や村はその形や色がベカーのそれらと紛らわしく,そのために人目につかない。巨大な2つのレバノン山脈は平原を右に左に取り囲んでおり,頂上に積もる雪だけでその高さが察せられる。実際,平原もこの場所では高さが既に2500ピエ[約810メートル]で,バァルベックの北方3里まで,見渡す限りずっと上りになっており,そこでは最も高い地点は海抜4000ピエ[約1300メートル]にもなる。ジャバル・クニーセとサンニーンの頂上はそれぞれ6800ピエ[約2200メートル]と8500ピエ[約2750メートル]であり,レバノン杉の森の南側にある鋭鋒は9400ピエ[約3045メートル],また同じレバノン杉の森の北にあるアル=ミスキーエ(「水撒き(人)」)と呼ばれる壮麗な円錐状の頂上は10000ピエ[約3240メートル]もあるが,これらすべてのレバノン山脈の巨峰群が持つ眺望の魅力は,平原のこの部分からでは当然ながら失われている。アンチレバノン山脈の方は,最も高い頂上でも7000ピエ[約2270メートル]を超えないが,さらに一層見えにくい。というのも,前方の岩山が雪に覆われた頂上を視界から遮っているからである。
ベカー高原は水が豊かで平坦なことから、レバノンやダマスクスへの小麦供給地の役割を果たしてきた。現在、小麦はほとんど作られず、野菜・果物・乳製品の産地となっている。気温の日較差が大きくブドウの生育に適しており、芳醇たるワインを産する。