展示品
86 ジャッズィーン川の滝
 我々の目的がベイルートに到着することであったならば,幾つかの美しい眺望で有名な道を辿ったことだろう。まずムフターラとバールーク川の素晴らしい谷,次にベイト・エッディーン,つまりブテッディーン,そしてドルーズ派のエミール・バシルのかつての住居であったデイル・エル=カマルなどである。ダームール川の上流の支流をカーディー橋で渡り,旅の最初の頃に行った小旅行で既に知っているアベイに最後に到着することになるだろう。幸いにも出発地に急いで戻ることはないので別の方向に向かうことも出来る。とは言え,ジャッズィーンを離れる前に我々は,町の北方数百歩にある有名な奔流の滝(図版86)を訪れることにする。瀑布と向かい合った深い峡谷の西側には多くの岩山がそびえ,先端の突出部がマシュムーシェの村落と,そのすぐ近くの岩山の上に立つ同じ名を持つ修道院を支えている。レディ・ヘスター・スタノプはこの地方の心奪われる景色と素晴らしい空気に魅せられて,マシュムーシェを夏の居住地に選んだ。
■ジャッズィーン川の滝の現在, 2013年8月(撮影:黒木英充)
レバノン山地に劇的な景観は多いが、これもその一つ。写真撮影時は夏だったので滝の威勢は良くなかった。レディ・スタノプ(1776-1839)は、英国のピット首相の姪で、ロンドン社交界での活躍後、東地中海への船旅に出て、1812年からパレスチナ、レバノン、シリアを放浪し、シドンに近い山頂の邸宅で孤独な晩年を過ごした。