展示品
29 クファル・ベルンのシナゴーグ跡
 クファル・ベルンの村に近づくと旅人は,彫刻が施された南向きの古い門に惹きつけられる。それは遥か昔に壮大な建造物の入り口を成していたものであり,その建造物は,ガリラヤに見られる同じ種類の建物との類似や村人たちの言い伝えから判断すると,かつてシナゴーグであった。門にはヘブライ語の碑文がまだ見られるが,歳月によって殆ど消えており,今では判読することが出来ない。村に入るとちょうど右側に,もっと保存状態の良い他の建築物の跡が見えるが,これも恐らくシナゴーグであったのだろう(図版29)。今なお,装飾を施された門の大きなペディメントや窓,そしてポルチコの円柱が残っている。建物の本体部分は専ら地震で破壊されており,私がデッサンするのを眺めていた村人たちは,地震で倒壊した上階を見た覚えがあると断言している。この建造物の石材は,有名なバァルベック遺跡やエルサレムの神殿の壁に見られるような密度の高い黄色の石灰岩である。
この地域は、トルコやイランほどではないものの地震発生地帯で、現在も年に1,2度の微小な有感地震が報告される。レバノン山脈の最高峰が3000m超、死海が海抜下400mという、東地中海沿岸部の高低差は、褶曲造山活動によるものである。