展示品
13 ハルウェト・アル=ビヤードから見たヘルモン山
 この高所を訪れる際にドルーズ派の聖域から少し逸れざるを得なかったが,それは傾斜地を東に向かって下るためであった。この場所ではヘルモン山の最も美しい眺望のひとつを楽しめる。実のところ山腹の大部分は眼前に聳え立つ頂きに覆い隠されているのであるが,ヘルモン山の高さはこの驚くべき天然の城壁と我々との間に位置する深い谷によってわかる。眼前の「城壁」はワーディー・シェバーと呼ばれる暗い峡谷によって分断され,ワーディーは多くの周回線を形作りながら山の頂上にまで続いているようである。アル=ヒバーリーヤ村はこの峡谷の南の断崖に載っている。矮性の松や樫の見事な群落が壮麗な山の低い稜線の頂きを覆い,稜線の背後にはさらに高い山脈の鋭鋒がそこから降雪地帯であることを示しており,松の枝の間に点々とした白銀色が垣間見える。しかしより深い感銘を覚えるのは,くすんだ山脈の後ろに純白の雪冠を頂いて出現する広大な山頂である(図版13)。氷河や万年雪に覆われた山頂の光景を見慣れた者ならば,ここから見えるヘルモン山の与える印象が容易にわかることだろう。人間の精神は,ありふれた生活の中では出逢うことのない崇高な光景を見つめるたびに,地上を超えたなにものかに属するようなその土地に対して得も言われぬ喜びを覚える。あたかも,自らの起源が天上に由来することを悟り,またその本質により相応しい純粋要素の中に,今まさに身を置く幸せを感じるかのように。聖書はヘルモン山が様々な名で呼ばれていたことを教えてくれる:「シドンの人々はヘルモン=シリオンと呼び,アムル人はセニルと呼んでいる」(「第二法の書(申命)」3章9節,「歴代の書上」5章23節,「エゼキエルの書」27章5節),「シ[リ]オン山,すなわちヘルモン山」(「第二法の書(申命)」4章48節)。サマリア人の翻訳家はヘルモン山を「雪の山」と呼んでおり,ジャバル・アッ=シャイフ(長老山)という呼称の方がはるかに一般的であるにもかかわらず,この土地の人々は今なお,しばしばこの名称ジャバル・アッ=タルジ(雪の山)を用いている。
■ヘルモン山をラーシャイヤーから望む, 2008年5月(撮影:黒木英充)
ヘルモン山(標高2814m)は東レバノン山脈の南端に位置し、頭抜けた雄大な山である。初夏のダマスクスからも雪に覆われた山頂部を望むことができる。フェニキア人がこの山を「シルヨン」と呼んだのが「シリア」の語源となっている。この山の荘厳な雰囲気は多くの人々の心を惹き付けてやまない。写真は北側の町ラーシャイヤーから撮ったもの。