展示品
8 アル=アウリー川(ボストゥレヌス)
 アル=アウリー川の支流のうち最も大きいバールーク川は主峰の高所に水源を持ち,流れに沿って,泡立つ水の上に張り出した多くの村に囲まれている。この急流はジャッズィーンの支流を受け入れた後,ルンミーエ・ルーム山のちょうど麓で南西の流れを西へと向きを変えるが,そこで我々は数日前にその河口を渡った。私はシドンで天候が回復するのを待っていた間,この美しい谷に一度ならず引き寄せられて足を運んだものである。もし天候がそのような小旅行を許さなかった場合には,ベイルートからシドンに向かう際に,海岸から少し離れた小道を辿ることをお勧めする。というのも,川に近づいた時に,ファフルッディーンによって建造された見事な石造りの橋をそこで渡るからである。この橋は直径が16メートルもあるひとつのアーチで出来ており,道幅は4メートルある。この橋の欄干から描いたのが図版8の眺めである。この橋から200メートル上流には他の橋の廃墟があり,レディ・ヘスター・スタノプがそこで宝物を探させたが,それはアスカラーンの時と同様不成功に終わった。
■アル=アウリー川の現在, 2012年6月(撮影:黒木英充)
レバノン山脈には多くの峡谷があり、冬の降雨・降雪により多くの川が地中海に向けて流れ込む。いずれも急流で川幅は狭い。シドンから北上する際に最初に渡る川なので「第一の(アル=アウワリー)川」と名付けられたのだろう。イタリア・フィレンツェのメディチ家と通じて対オスマン朝反乱を企んだファフル・アッディーンが建造した石橋は、もはや存在しない。