展示品
1 ベイルート,シムーラン街道の眺め
 石だらけの道を行程の半ば,つまり町から2里離れたシムーランまで進んだら,小さな松林の日陰でしばしの間休むことをお勧めする。そこからはベイルートと湾,またそれを取り巻く丘を最も美しく見ることが出来る(図版1)。遠く離れた町の華やかな色合いの家々,それよりも近くに見える山頂の村落の家々,ベイルートの南(つまり画の左側)の平野に広がるシュウェイファートのオリーブの木立,山の斜面に連なる段々畑,地中海の青く穏やかな水,近くの岩山の多彩な色合い,そして我々を包み込む松林の深緑の頂など,それらのすべてが傾く太陽の強い光に照らされて一幅の画を作り上げており,イスラエルに約束され,モーゼが見出そうと望んだこの地が何故に,「美しい山地とレバノン」(「第二法の書(申命)」3章25節),「美しい地」(「脱出の書(出エジプト)」3章8節),「乳と蜜の流れる地」(「レビの書」20章24節)等々と呼ばれたのかが十分に理解できる。
■ほぼ同地点と思しき場所からベイルートを望む, 2012年6月(撮影:黒木英充)
当時ベイルートは東地中海の主要な蒸気船停泊港の一つで、聖地巡礼の旅人たちはここに上陸して陸路パレスチナをめざすのが普通だった。レバノン山間部の美しい松林で豊富にとれる松の実は粒が大きくて味が良く、料理や菓子にふんだんに使われる。