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ムンダ語 報告

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研修期間
2021年8月16日(月)~2021年9月10日(金)
午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日,日曜日は休講)

研修時間
100時間

研修会場
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所
(〒183-8534 東京都府中市朝日町3-11-1)

講師
主任講師:
長田 俊樹(おさだ としき)総合地球環境学研究所名誉教授,神戸市外国語大学客員教授,国立国語研究所客員教授
ネイティブ講師:
Purti Madhu(ぷるてぃ まどぅ)

受講料
60,000円(教材費込み)

教材
『ムンダ語教本』(長田 俊樹,Madhu Purti 著)
『ムンダ語読本』(長田 俊樹,Madhu Purti 著)

文化講演
  • 日時:2021年8月27日(金曜日)15:20-16:20
  • 講演者:小林 正人(東京大学教授)
  • 日時:2021年9月1日(水)15:20–16:20
  • 講演者:外川 昌彦(AA研所員)

講師報告

1. 研修の概要 詳細

○研修期間:
2021年8月16日(月)~2021年9月10日(金)午前10時00分 ~ 午後4時30分(土曜日,日曜日は休講 )
○研修時間:
100時間
○研修会場:
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所所 マルチメディア室(304)

本研修は2021年8月16日(月)~2021年9月10日(金)までの20日間,1日あたり5時間,合計100時間実施した。
会場は,東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所マルチメディア室(304)を利用した。

2. 講師 詳細

○主任講師:
長田 俊樹(おさだ としき)総合地球環境学研究所名誉教授,神戸市外国語大学客員教授,国立国語研究所客員教授
○ネイティブ講師:
Purti Madhu(ぷるてぃ まどぅ)
文化講演者:
小林 正人(東京大学 教授),外川 昌彦(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所 教授)

3. 教材 詳細

  1. 『ムンダ語教本』(長田 俊樹,Madhu Purti 著)
  2. 『ムンダ語読本』(長田 俊樹,Madhu Purti 著)

1.『ムンダ語教本』は 2001 年度におこなった言語研修の教科書を改訂したものである。大幅に変えたのはその時に受講生だった小林正人東大教授,ムンダ語の擬態語擬音語に関心を寄せているネイサン・バドノック京大准教授(現ヴィラノーヴァ大学),そして学振の外国人特別研究員として小林教授やバドノック准教授の下で指導を受けた二シャント・チョクシ氏(現インド工科大学准教授)のご提案により改訂を行った。大きな改定としては,1,日本語=ムンダ語語彙集を追加した,2.複文などの説明を加えた,3.動植物語彙表をくわえた,以上三点である。
2.『ムンダ語読本』は前回の言語研修の時に作成したものとは大幅に改稿した。今回はMadhu Purti(日本名:長田マキ)が覚えている昔話や歌を中心にまとめた。第1部創作文,第2部昔話,第3部ムンダ歌謡の世界,第 4 部ムンダ儀礼の世界の4部構成として,ムンダ語テキストを用意した。なるべく多くのテキストを用意したのは,受講生によって,関心のあり方が違うので,それに対応できるようにと多くのテキストを用意したが,昔話と創作文を学ぶのがやっとであった。

4. 受講生詳細 詳細

受講生は全部で4名であった。本学学部生1名,本学大学院生1名,他大学大学院生1名,一般社会人1名である。一人がワクチン注射のため,またその副反応のため一日半休んだが,その他の受講生は皆勤であった。したがって,全員が無事修了証を受け取ることができ,言語研修担当として胸をなでおろすことができた。
受講動機については,すでにインドの言語を学んだ大学院生二人はムンダ語を学ぶ機会がないために受講され,言語研修を多数受講しておられる一般社会人はどんな言語なのかという関心から受講し,学部学生はインドネシア語を専攻としているが,世界のいろんな言語に関心を寄せており,その興味から受講された。

5. 文化講演 詳細

2021年8月27日(金曜日)15:20–16:20
講演者:小林 正人(東京大学教授)

小林教授は前回言語研修の受講生で,本言語研修の講師である長田が研究代表者を務める科学研究費基盤研究(B)「ムンダ諸語における危機言語のドキュメンテーション」の研究分担者を務めておられる。その科研での小林教授の担当はコルワ語のドキュメンテーションであり,そのコルワ語とムンダ語の相違点などを講演していただいた。コルワ語話者がどんな所に住み,どんな言語なのかを簡単に紹介した後,実際に,録音を聴きながら,その録音をテキスト化したレジュメを見ながら,コルワ語の特徴を説明したが,時間的には少なく,2時間やっていただいた方がよかったかもしれないと反省した。長田にとっても,いろんな点で面白い発表となったが,受講生からも質問が飛び,有意義な文化講演となった。

2021年9月1日(水)15:20–16:20
講演者:外川 昌彦(AA研所員)

外川昌彦教授は慶応大学の大学院生時代から存じ上げていて,そのよしみで文化講演をお願いした。発表では,インドの状況を全く知らない人にもわかるように,ヒンドゥー教とイスラーム教の基本的な相違点を紹介し,バングラデシュにある,もともとヒンドゥー教徒であるモノモホン・ドットの聖廟(イスラーム教の死者を祭るもの)に焦点をあて,宗教におけるシンクレティズムを論じた。内容はバングラデシュのイスラーム教の諸相を論じたもので,言語研修の内容とはかけ離れたものであったが,インドに関心を持つ受講生も多く,発表に関心を寄せて,多くの質問が出て文化講演としてはよかったと思っている。

6. 授業 詳細

第1週では『ムンダ語教本』を前から順番に学習していった。まず発音から入ったが,日本人が苦手とする流音が /r. l. ɽ/三種あり,またインド諸言語の特徴である反舌音も多く,その区別にはかなりの受講生が苦労されたが,母音などは 5 母音でそれほど苦労なく学習できたようである。基本会話編では前回の言語研修にはなかった練習問題を作っておいたが,練習問題を解くことで受講生の習得度が図れてよかった。
第2週からは読本を読むことにして,まず録音もされている昔話を取り上げた。聞いて理解するのはなかなか難しいようだが,テキストにされたムンダ語を訳すのは受講生全員がやすやすとこなしてくれたのには正直驚いた。昔話については,用意したテキストを全部訳すことができたのは大いなる収穫であった。
昔話と並行して,訳に疲れたら歌を挟んで,講師の Madhu Purti に歌っていただいたが,歌への関心はもう一つだったので,第3週では昔話に続いては創作文を読んでいった。創作文はかなり難しく,昔話をすらすらと訳していた受講生も大変手間取った。最終週では,講師の Madhu Purti とのムンダ語会話の実践をおこない,最終日には受講生全員に,自由論題でムンダ語作文を披露していただいたが,ムンダ語作文の出来栄えの良さに言語研修をやってよかったと実感した。

7. 研修の成果と課題 詳細

ムンダ語の言語研修は2001年に続いて,二度目である。前回の受講生は三名と少数ながら,一名は今回文化講演で講演してくださった小林正人教授である。小林教授がムンダ語や隣接言語の研究に従事していることは大きな成果であったと自負している。今回も,大学院生が二人受講してくださり,彼らがムンダ語関連の研究を続けてくれるのであれば,講師としては望外の喜びである。
今回の言語研修で課題となったのは,テキストの選定である。昔話などは子供たちに聞かせるものであるため,比較的わかりやすく学習しやすかったのであるが,上級になればなるほど,隣接言語であるサダニー語の知識などが必要で,ムンダ語が置かれている言語状況から言って,ムンダ語だけの学習では限界があることを悟った。前回はムンダ語の歌謡の世界について,かなりの時間を割いて紹介したが,今回は1週間短くなったうえ,音楽への関心がそれほど高くなかったように見えたので,あまり触れなかった。対象受講生を絞ることで,もっと深い研修もできたかもしれないが,それは今後の課題としたい。

8. おわりに 詳細

研修中,受講生の理解の速さに大変驚かされることが多かった。講師の不注意によるミスプリが多かったのだが,それらについても,皆さんから進んでご指摘していただいた。それだけよく理解されていたのだと思う。2001 年の言語研修では講師たちがまだ若かったこともあり,ずいぶん足りない点が目に付き,それが今回もう一度言語研修をしたいと思うモチベーションとなったが,前回に比べて時間も短いにもかかわらず,満足感,達成感ということでいえばくらべものにならないほど素晴らしいものだった。ひとえに,受講生の皆さんのたゆまない努力と関心の高さがこの達成感をもたらしたものだと思います。まず受講生の皆様に感謝申し上げます。 教材作成に際しては,小林正人教授,バデノック准教授,チョクシ准教授の三名が前回の教本を改訂させるのにあたって,ご提案を賜りました。三名の名をあげて,感謝の意を表します。なお,教材作成にあたり,編集ソフト LaTeX を使用したが,それらはすべて高島淳東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化所名誉教授が用意してくださったものである。高島名誉教授へも感謝申し上げる次第である。 最後になりましたが,AA研の言語研修委員会の委員長である塩原朝子教授には大変お世話になりました。また塩原教授以下,言語研修委員の皆様にも大変お世話になりました。研修中には東京外国語大学の国際交流センターに滞在いたしましたが,その事務手続きなどは久納弘明様はじめ AA 研共同研究係の皆様に大変お世話になりました。本当にありがとうございました。

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