日本学術振興会 人文・社会科学振興プロジェクト研究事業
領域II - (1) 平和構築に向けた知の展開

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総合討論(3/3)

 司会 では、先ほどの「『人間の安全保障学』が構築されるとしたら、その全体像は」というご質問に対して、このプロジェクトのリーダーであります黒木英充氏からご回答いただきたいと思います。

 黒木 非常に重い質問です。よく設計図もなしに家をつくってどうする、という言葉がありますが、設計図はほとんどない状況です。「学として構築する」と一応私もそういう風呂敷を広げてみましたが、そういった試みは他の研究機関でも、教育機関でもあります。

 来年度から東京大学大学院の総合文化研究科では「人間の安全保障」に関する専攻コースができます。私どもが属している東京外国語大学では、「紛争予防、平和構築」というコースが新たにできます。ほかにもいろいろあると思います。そういったところでは先生方が授業科目の構成をどうするかといったところで、そういった問題を現実に考えていらっしゃると思います。

 私どもはこれを研究プロジェクトとしてやっていますので、もう少しゆったり構えていられるのかもしれません。今日皆さんにいろいろお話しいただきましたが、「人間の安全保障」は非常に振幅があるということが明らかになったと思います。戦争のような非常に重い課題から、もう一方の極では、こういったかたちでこれだけのことをしたらこの村の医療がこれだけよくなったというところまで、いろいろな幅を持って揺れ動いているものだということが、おわかりいただけたと思います。そしてまた揺れ動くがゆえに、非常に慎重にならなければいけない局面もあります。

 そういったものを掲げてわれわれ研究者が走り出しているわけですが、そういったときにそれが将来、「人間の安全保障学」という一冊の教科書に収斂するのか、あるいはもっと分散したものになるのか。どちらがいいのか、私もよくわかりません。

 ただ次のようなことは言えると思います。最初に申しましたように、本来ですと私は18〜19世紀の歴史文書を文書館にこもって読んでいるような者でありまして、そういった者が全然、場違いな問題をやっているように見えると思います。

 ところが今日のお話をうかがって非常に触発されますのは、100年前、200年前、300年前のことが、現在にずっと通じているというのを感じることがあります。たとえば暴力の問題、それからその暴力をどのように社会がとらえているか。そういった文化的な文脈というものが、200年前、300年前の事件の中に、驚くほど現在と似ているものが出てくることがあります。

 そういった問題は、ガルトゥング先生がおっしゃった「ディープ・カルチャー」に近いものがあるかもしれませんが、そういったことを気づかせてくれます。それがまたほかの医学、生態学、人類学、経済学といった分野の方々がやっていらっしゃる仕事と、ある面でものすごく重なりあってくる。これがわれわれ研究者の研究の幅を広げていくことになって、われわれ自身の仕事の内容にもフィードバックされてくると思います。その先におそらく何かが出てくるかもしれません。その明確な地図は、まだ私の中にははっきりできていません。

 繰り返しになりますが、いろいろな方法論の研究者が集まって、そしていまだに揺れ続けている言葉、振幅の大きな言葉ではありますが、しかしそれを何らかのかたちで豊かにし、そこに新たな価値を付与して、社会にそれを投げ返していく。それができれば、そのときに「人間の安全保障」が学として一歩前進したと言えるのでは、と考えます。私のこの考えに関しては反論の先生も多いかもしれませんが、とりあえず現在の考えです。

 司会 何度も申し上げていますが、つい最近、発足したプロジェクトでございます。本日もかなり問題が出てきましたが、そもそも「人間の安全保障」というのはこの概念でいくのがいいのか。問題があるにもかかわらず、この概念でいくのか、それともこの概念はやめたほうがいいのかということです。

 そういったことも含めて、かなり流動的に人が出たり入ったりするかたちのプロジェクトですが、本日のシンポジウムの中でいろいろな論点、ご意見、ご示唆をいただきましたので、この中でこれから少しずつ「人間の安全保障学」の構築を目指して進んでいくということです。いまの黒木さんの意見に対していろいろ反論等もおありかと思いますが、この段階ではこれからそれを議論していくということで収めさせていただきたいと思います。

 今回のシンポジウムに関しましては、地域研究コンソーシアム設立準備委員会、および東京外国語大学から共催をいただいています。資金的な援助もいただいています。この両者にかかわっている東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の所長、宮崎恒二より一言ご挨拶を申し上げます。

 宮崎 ご紹介いただきました、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の宮崎でございます。共催になっております二つの組織をまとめて一人で、ということで、ご挨拶をさせていただきます。

 本日は講演者の方々、パネラーの方々、それからフロアの方々、参加者の方々、どうもありがとうございました。「人間の安全保障学」の構築プロジェクトは、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所のプロジェクトの一つとして始まったばかりです。

 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所は通称AA研と申していますが、これまでは言語文化を主体として、歴史も組み込んだかたちで非常に広範に研究プロジェクトを進めてまいりました。このプロジェクトが学術的な香りがしないと言うわけではありませんが、いわば学問的、学術的な香りのするような、わりあいに狭い範囲でのプロジェクトをやってきました。しかし新たな試みとして「人間の安全保障学」を始めることができて、研究所としても注目しているわけです。

 研究所が属している東京外国語大学は地域文化研究科という大学院を持っていて、こちらでもこれにやや性格の近い教育プログラムを始めようとしています。そういう面でこのプロジェクトの発展を見込めるのではないかと思っています。

 それから東京外国語大学は100年くらいの歴史を持つわけですが、共催のもう一方の委員会である地域研究コンソーシアム設立準備委員会は、昨日発足したばかりです。まだ1日しか経過していません。

 今日の午前中のパネルでおそらく皆さんもお気づきになったり、あるいはすでにご存じのことと思いますが、世界各地のいろいろな地域研究に携わっている方は結構多いわけです。それは相当な成果を上げておられます。今日の活発なお話の中から、それは明らかだとお感じになったと思います。

 しかしこれまでそれを総体的にまとめる場がありませんでした。日本の研究機関でもアジア・アフリカ言語文化研究所だけではなく、地域研究企画交流センター、東南アジア研究センター、スラブ研究センター等々、地域研究にかかわる組織はずいぶんあります。しかしその間のコーディネーションがこれまであまりなかったわけです。

 しかしこのように新たなプロジェクトを始めたり、あるいは池澤先生もおっしゃいましたが、発信していく上において組織的な努力をすることは必要だろうし、ぜひそれをやっていこうという機運が高まってきました。そういう意味で関連する機関を束ねるかたちでコンソーシアムをつくり、そこで新たな活動を開始していこうということです。

 なお地域研究ということについて、ガルトゥング先生は若干の疑念を表明されました。しかしこれは、ある地域の専門家がその専門家ばかりで集まって何かするというようなコンソーシアムにはしない。むしろいろいろな地域にかかわった方々、それからその地域で研究された方々が地域横断的なかたちで集まって、新たな問題・視覚の発見や、データの集積などをやっていきたいというのが趣旨です。したがってこれまでの狭い意味での地域研究ではなく、もう少し広がりのある地域研究をもって発信や新たな方向の開拓に努めていこうというわけです。

 まだ1日の歴史しかありませんが、今後早急に体制を整えながら事業を展開していきたいと思っています。「人間の安全保障学」も地域研究コンソーシアムの活動と密接につながってきます。このプロジェクト、それから地域研究コンソーシアムについても、皆さんには今後その活動にご注目いただきたいとお願い申し上げます。

 本日は、講演者の方々から非常に明晰、かつ重々しいお話をいただきましたし、パネラーの方々には活発なご議論をいただきました。またフロアの方々からは熱気の溢れてくるような質問もいただきました。共催者を代表して一言お礼の言葉と代えさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

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