日本学術振興会 人文・社会科学振興プロジェクト研究事業
領域II - (1) 平和構築に向けた知の展開

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総合討論(2/3)

 司会 それでは、続いて池澤夏樹先生にお願いします。これは「池澤先生がお話の中で言及された『大きな預かりもの』、地域研究者は同じようなものをみんな持っているのではないか」。地域研究のほうでは、「そういうものをどうするのか」というのを島田先生に対してご指名でご質問が届いています。一方で池澤先生にも「この関連でどういうふうに伝えるのか」ということで質問が届いていますので、ご回答をお願いします。

 池澤 「地域研究者は、池澤さんのおっしゃった大事な荷物をたくさん持とうと日々努力していると思います。このような大事な荷物である『現地の知』を、どのようにしてそれを直接得ることのできない人々に伝えていけるのでしょうか」というのが趣旨です。

 これはどこまで伝えたら伝えたことになるかというのは難しいけれども、でも伝える手段は皆さんお持ちだと思います。雑誌に書く、サイトをつくる、世間に向かって啓蒙する手段は、ないわけではない。僕はもともと旅行好きもありまして地域研究が好きで、そういう関係の本をこれまでにずいぶん読んできました。

 沖縄に戻ったらすぐに、松田素二さんという京都大学の先生の『ケニアの都市社会学』の本を書評すべく、丹念に読むつもりでいます。ですから本になっていれば、人は読みます。少なくとも関心を持っている人は読みます。雑誌だって読みます。インターネットもあります。だから人が受け取るかどうかはまた別ですが、発信はいつでもしていける。その意味では日本はまだよい状況にあると思います。

 ただ受け取るかどうかは別というのは、僕に言わせれば日本人は格別に海外事情に対する関心の薄い、内向的な人々ですから、困難は多々あります。しかし発信する自由は、われわれのリサーチャーズ・ベーシック・ニーズとして与えられると思いますから、一生懸命やってください。

 司会 それでは島田先生が少しお時間をということであれば、別の質問について簡単にご紹介します。実際にはいろいろと個別のものがありまして、たとえば松林先生には「2000年に高知県の医療費が突然低下したのはなぜですか」。それからさらにより大きな問題としては、「地域研究というものについて今日は語られなかったので、地域研究についてもう少し何か語っていただきたい」というのもありました。

 これはあまりにもテーマが大きすぎます。昨日、地域研究とは何かというワークショップを4時間くらいやったと思いますが、それでもなかなかまとまりが出ないような問題でした。ですから今日のところはプログラムにも書いてありますように、「いま『現地』に立ちもどって考える」ということです。今日は「人間の安全保障」をそういうかたちで考えたいということで、それを地域研究の一つの特性として出したということで、ご了承いただければと思います。

 あと2点ほどご質問があります。これに関連しては、どなたにというわけではありません。ですから話し足りなかったことも含めて、前に8人のパネラーの方に並んでいただいていますので、お答えいただければと思います。

 1点は、「『人間の安全保障』への日本のかかわり方は今後どうなっていくのか。たとえばODAの変化、緒方貞子さんのJICA代表就任などを通じて、どう変わっていくのかということについて、何か」ということです。「人間の安全保障」を緒方貞子さんもおっしゃっているわけで、ODAも含めて、これがどういう影響を与えているのかということで質問が届いています。どなたかお答えいただける方がいらっしゃれば、それに絡めてさらにということでも結構です。

 それから最後は、基本的にこのプロジェクトの代表ということになっている黒木英充先生にお答えいただくしかないと思います。しかもなおかつこの質問に対して簡単に答えられれば、昨日今日発足したばかりのこのプロジェクトはもう終わっていいという感じです。「『人間の安全保障学』が構築されるとしたら、その全体像は結局、どうなるのでしょうか」。(笑)これから構築しようと思っているので、全体像が見えていれば構築の努力はいたしませんという回答しか出ないかもしれませんが、これは黒木さんにお願いしたいと思います。

 これを最後にしていただくとして、島田先生、それからいまの日本の「人間の安全保障」の問題も含めて、どなたか何かあればということです。

 それからガルトゥング先生から、たとえば地域研究者の問題と言われましたが、幸いにして本日のシンポジウムでは、ラテンアメリカとアメリカの関係から始まって、とにかく常に関係性の中で地域をとらえる、ということもやってきました。そういうふうにわれわれはやっています、ということも含めてご意見がおありの方は、パネルのほうでご意見をいただければと思います。

 まず島田先生からお願いします。

 島田 池澤先生もおっしゃったように、私たちも職業としていろいろな論文を書いたり、あるいは個人的に努力しているのは、こういう会やほかのシンポジウムに招かれたら、時間のある限りなるべく出ていって発言をするというのがせいぜいです。もう一つは、僕らは荷物というか、課題を請け負ってしまうわけですが、その多くの課題というのは、実は僕ら自身が投げているということが常に出てくるものですから、ものすごく重いのです。

 今回、追放の事例を一つお話ししたのですが、実は追放になったきっかけというのは、僕ら自身のある意味で善意みたいなものです。村の小学校の屋根が台風で吹き飛んで、そのためにお金を少し寄付する。寄付するときには、私はその村に関しては数年にわたって関与していますから、間違いのないようにしています。地域研究者の鏡として正しい方法で、NGOの人でも、政府はもちろんできないような方法で、つつがなく事が進むようにと思って、すごく考えて渡します。その渡した方が思ったようには動かなかった。そして結局、ああいう事件が起きたのです。

 NGOの話も少し出しましたが、あのNGOは自分自身でもある、ということが常に自覚としてあります。そういう問題を事あるごとに話しているつもりですが、それを直接どういう具合にみんなに伝えるか。「現地の知」と言うと何か白々しくなってしまって、そんなものではなくても、私自身も完全に取り込まれてしまっている。ですから私は日本でも組織の中でいろいろ問題を起こしていると思いますが、それと同じレベルで向こうでも問題を起こしている。その範囲で、帰ってきたら伝える手段を持って伝えたいと思っています。

 池澤先生が言われたように、私たちが何か発言しても、アフリカの一つの村で起きたことといった話は、実はスポッと終わってしまうわけです。今日は私はかなり背伸びをして、一般化した話をしました。そういう点でなかなか伝わらない、石を投げてもなかなか伝わらないというもどかしさもあります。

 今日は非常に大きな話からミクロの私たちの話までつながって、その点では荷物の一部は下ろせたのかという感じがします。以上です。

 司会 ありがとうございます。ほかのパネラーの皆さんはいかがでしょうか。本日はいろいろなテーマを提起していただきました。松里先生、池澤先生は重なった部分もあるかと思いますが、「人間の安全保障」とかかわっている人権のメディアの外側からのコントロールというか、誤解の問題というのもありました。

 それから島田先生からは、もともとアフリカの「人間の安全保障」というところからいかないといけない。先進国の安全のためではないだろう、とか、さらに松林先生からも、幸福というのは医療の先にあるというかたちで、この問題を語っていただいたり、いろいろな論点が出ていました。これを議論する時間はありませんが、私がほんの少しだけまとめさせていただいたのも含めて、パネラーの方、ご発言はよろしいでしょうか。

 パネラーの方がご不満でなければ、フロアのほうから、先ほどのガルトゥング先生、池澤先生、島田先生のご回答も含めて、何かまたコメントをお持ちの方がいらっしゃれば、お一人もしくはお二人くらいかと思いますが、挙手をいただければと思います。いかがでしょうか。よろしいですか。

 では、第2部のイラク戦争下の「人間の安全保障」という問題に関しては、日本においてイラク地域研究の第一人者である酒井啓子さんが会場にいらっしゃるので、1分か2分程度の時間で何かコメントをいただければお願いします。

 酒井 いきなりふられたので、気の利いたことを言えと言われても大変難しいのですが、今日のお話は大変参考になりました。特に池澤先生のお話は大変重い、まさにこの状況に対して何もできない自分の痛みというものを、とにかく自覚するところから始めなければいけないというところは、本当にそうだと思います。ただ地域研究者として、大変地道ではあるけれども、そこからいかに正確な図を出していくか、発信していくかというところが重要になってきます。

 先ほどガルトゥング先生は、今後イラクはこういったことを中心に見ていかなければいけないというポイントをいくつかあげられましたが、その中にそれぞれ関与している交渉相手、勢力を正確に認識して見ていかなければいけないというご指摘がありました。たとえばその交渉相手、勢力とは何か。日々刻々と変わっていく現地の人々の主体、アイデンティティです。

 たとえばガルトゥング先生のお話にあった、私たちは私たちの仲間に統治してほしいと言ったときの、「私たち」というのは一体誰なのか、というのはおそらく毎日変わっていきます。そういったところを地域研究者がいかに正確に提示できるのかというところは、われわれに投げられた課題です。

 しかし非常に腹立たしいことに、たとえば今日言ったことが3日後には状況が変わってしまっている。そのことに対して、これはマスコミの方々にお願いしたいのですが、変わってしまった状況を新たに追加で報告するのではなく、昔言った発言がそのままずっと固定化されるようなかたちで、逆に間違った情報が蔓延してしまうことも起こるわけです。どんどん書いて、どんどん発信していく必要があると同時に、それをいかに正確なものに近いものにしていくかというのは、大変大きな課題だと思います。

 別にイラク研究者だからという発言ではなくて申し訳ないのですが、感想めいたことで失礼いたしました。

 司会 ありがとうございました。

 それから臼杵陽先生は本日のご紹介で、国立民族学博物館地域研究企画交流センター教授と申し上げましたが、同時に東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の併任教授でもいらっしゃいます。

 ちなみにその関係で言いますと、帯谷知可先生も国立民族学博物館地域研究企画交流センターの助教授であると同時に、北海道大学スラブ研究センターの併任助教授でもいらっしゃいます。

 臼杵先生、どうぞ。

 臼杵 私は一言言い忘れたことがあります。パレスチナ問題をアラビア語で言うと、「アル・カディーヤトゥ・ル・フィラスティーニーヤ」と言います。「カディーヤ」というのは「大義」です。つまり単なる問題ではない。つまりいま正義が実現されていないというのが、パレスチナ人の意識です。彼らがいちばん苛立っているのは何かというと、別にお金が欲しいわけではないし、援助してくれということでもありません。つまり世界が沈黙していることに対して怒っている。このへんは何度も繰り返し言わなければなりません。

 もう一点、私はガルトゥング先生とは反対の意見があります。それは連邦制で中東問題は解決しない。なぜならイスラエルというのは、アジアにおける日本と同じです。つまりもし連邦制をつくってしまうと、完全に中東はイスラエルの経済的支配下に入る。それは絶対に実現できないことだと思います。

 だからその問題は非常に重要な点で、いままでなぜ連邦制が失敗したかというのは、イスラエルの圧倒的な力がある。それはアメリカが支えているというところが問題であって、政治的な枠組みだけではなく、経済的な問題が歴然としているということです。この2点です。

 司会 主催者のほうからはもう10分、5時半までは延ばしてもいいという話がありますので、ガルトゥング先生のほうで反論がおありでしたら、5分程度でいただいてもよろしいですが、特にありませんか。

 ガルトゥング イスラエルとパレスチナの関係に関しては、コンフェデレーション、国家連合という関係を提案しているわけです。ただ中東のコミュニティという点で、イスラエルとパレスチナを含んだ共同体を提案して、そういう点でのフェデレーションです。6カ国が一緒になった共同体であれば、その中でイスラエルもパレスチナもやっていけるわけですが、ただ二者だけのフェデレーションではうまくいかないだろうということです。

 司会 いま申し上げましたように5時半までということで、あと14分くらいは余裕ができましたが、最後にご挨拶もありますので、あとお一方、もしご遠慮なさっているということではなければいいのですけれども、よろしいでしょうか。

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