ILCAA Home > Essays > Conference Reports > Conference Reports vol. 1
Font Size : [Larger] [Medium] [Smaller]

Japanese version only.

Conference Reports vol. 1

第6回世界アフリカ言語学会議/The 6th World Congress of African Linguistics

稗田乃
日時:2009年8月17日-21日
場所:ケルン大学


アフリカで話される言語を研究する世界中の研究者が集まる最大規模の学会である。今回は,アフリカ手話のワークショップを含む,音声学から社会言語学まであらゆるテーマに関する約300の研究発表が行われた。設定された部会は,「言語ドキュメンテーション」,「意味論」,「音声学・音韻論」,「言語と開発」,「形態統語論」,「社会言語学」,「言語研究テクノロジー」である。また,個別研究分野として設定された部会は,「ヌビア研究」,「バントゥ研究」,「コイサン研究」,「エチオピア研究」,「アフリカ手話」,「ティマ研究」,「マンデ研究」,「クワ研究」,「スーダン研究」である。

研究所からは,亀井がアフリカ手話のワークショップで,稗田が音声学・音韻論部会で研究発表を行った。亀井の研究発表タイトルは,‘DVD Dictionary of Langue des Signes d’Afrique Francophone: descriptive study of Creole ASL in French-speaking Africa’であった。稗田の研究発表タイトルは,‘Consonantal system in Datooga’であった。また,稗田は音声学・音韻論部会では座長をつとめた。さらに,日本からは,阿部優子,大野仁美,梶茂樹,中川裕,米田信子が参加し,研究発表を行った。

約300もの研究発表があるので仕方がないとはいえ,同時に8会場で研究発表が行われる。そのために重要で興味ある研究発表が重なり聞くことができないという事態が生じた。

ただし,毎日1つ設定された全体発表においては,興味あるテーマが議論された。そのなかでもNeville Alexanderがアフリカの多くの言語が未開発のまま,死語の脅威にさらされている現状を指摘し,それを解決する方法として多言語教育を提唱した。それに対して,経済的に不可能ではないかという現実的なコメントや,国家統一のために1言語にこだわる国からの出席者のあまりに政治的なコメントなどが出された。しかし,これらの現実的な,あるいは,政治的な問題は,解決可能な状況にあるとの認識も示された。「アフリカの多くの言語が死語の脅威にさらされている」という言語の将来にたいする悲観的な見方に対して,アフリカからの参加者からポジテゥブな意見が出されたことに未来を感じた。

Neville Alexanderをはじめ,ベテランから若手研究者まで,ドイツで学んだ多くのアフリカ人研究者が参加していることに驚いた。ドイツは,アフリカ人研究者を養成することに熱心であったこと,そのための体制づくりを行なってきたことの成果であろう。このことは,日本語が外国人研究者養成には不向きであるとして,アフリカ人研究者受入に熱心でなかったことが,それが理由のない言い訳であることを証明している。優秀なアフリカ人研究者の発掘と取り込みは,日本のアフリカ諸言語研究にとって重要な課題であろう。


Copyright © 2010 Research Institute for Languages and Cultures of Asia and Africa. All Rights Reserved.