海外学術調査フォーラム

連続ワークショップ 『フィールド・サイエンスと新しい学問の構築』第二回 講演(レジメ)

中国における慢性砒素中毒への国際貢献
 山内 博(聖マリアンナ医科大学・予防医学)

 近年、自然由来の砒素による飲料水(井戸水)汚染が原因で地球規模の慢性砒素中毒が発生している。発生地域は中南米諸国(メキシコ、チリ、アルゼンチン)とアジア諸国(インド、バングラディシュ、中国)に集中し、最近、ネパール、ベトナム、カンボジアからも発生が確認されている。現在の推計で慢性砒素中毒患者は数十万人(100万人以下)、そして、約1500万人の高濃度砒素曝露者(慢性砒素中毒患者に発展する者)である。

 慢性砒素中毒で問題となるのは重度な角化症と皮膚癌である。筆者は1997年から中国における慢性砒素中毒の発生機序の解明と病気改善や予防対策に関して研究を継続してきた。研究において慢性砒素中毒の原因は無機の5価砒素であること、そして、砒素曝露量と発症時間の関係、病気の改善や予防対策などの方法を明らかにした。それらの成果は我が国の中国国民への草の根無償援助やJICA支援につながり、そして、中国政府が行う2002年からの飲料水改善による慢性砒素中毒対策の科学的根拠になった。他方、中国には砒素中毒学の専門家が少なく、国際共同研究を介して大学の若い研究者や地方政府の衛生行政の専門家の育成に貢献がなされている。