海外学術調査フォーラム

　1985-86年、筆者は名古屋大学・樋口敬二教授（当時）を代表者とする「アジア高山地域における比較氷河研究」チームに加えていただき、カトマンズ北方60キロの距離にある標高4,000ｍのランタン谷で一年を通した「氷河融解水の季節変動」の研究に関わる機会を得た。

　当時、予備的な気象水文調査は北大チームで行われた他、スイスチームも試みてはいたが、年間を通したデータ取得はまだどのチームも成功していなかった。幸いにして筆者のチームは初めて信頼できるデータ取得とその解析に成功した。この理由は、十分な時間をかけて机上プランを練ったこと、京大、北大、名大からフィールドに強い若手研究者の人材が育っており、かつ後方支援体制もしっかりしていたからと考えている。幸運にも、折から円高で、配分された経費が現地では十全に機能した。とは言え、当時の国際学術研究では、測器は各班の持参が原則で、このために私は国内の委託調査で測器を工面した。

　時を経て、1996年からはアジアモンスーン気候研究の一環として、私はシベリア永久凍土帯の担当となり、ネパールプロジェクトとは逆に、後方兵站を受け持った。こちらも、国際学術研究の補助を得て、シベリアの地で現地観測調査を行った。10年前のネパール調査に比べてはるかに多くの若手研究者が参画した。これによって、シベリアタイガを代表するカラマツ林の気候形成に果たす役割が、初めてデータとして取得できた。さらに多くの若い人材がフィールドに触れる機会を得たのは、将来にとって計り知れない収穫であったと思っている。