海外学術調査フォーラム

連続ワークショップ 『フィールド・サイエンスと新しい学問の構築』第一回 講演(レジメ)

フィールド情報学の確立-地球環境変動に関連して-
 福田 正己(北海道大学低温科学研究所)

 膨張した人類の生産活動の影響で、地球温暖化が進行しつつある。

 国際協調でこれを抑制しようとする気候変動に関する枠組み条約会議は1997年の京都会議で、当面の排出削減目標を定めた。しかし、その後の会議では、各国間の思惑や駆け引きのため、未だ批准成立に至っていない。こうした不一致の原因には、温暖化の現状把握や将来予測が科学的に未確定であることが指摘されている。確かに地球温暖化の主原因を観測結果から突き止めるのは容易ではない。また超大型計算機を用いても、将来予測を確定するのも困難である。一方で、温暖化効果ガスの固定化技術開発が、純工学的な手法でなされている。さらに排出規制やその経済効果など策定などの施策反映の検討が独立して行われつつある。それらの学問的検討は、個別的な領域内でなされていることが多い。温暖化抑制のためには、温暖化の原因究明→将来予測→抑制技術開発→達成のための施策といった一貫した研究の流れと結合が必要となっている。そこでは個々の研究分野に限られていたデータや情報の蓄積を、共通の目的達成のためにどのように共有化するかが問われている。

 そこで、個別的な野外観測や調査結果を、どのように共有化するかを前提とする新しい学問領域—フィールド情報学—の確立が急がれている。個別研究領域の生データを、他の研究領域の研究者がそのまま利用することは困難である。しかし、共通の目的達成のために、生データを編集し「情報化」することで、研究領域間での交換が可能となる。フィールド情報学(Field Informatics)は、自然科学と社会・人文科学の融合を促し、科学技術の進展による様々な弊害を克服する可能性を秘めている。


[参考文献]
福田正己:フィールドからの新しい科学、岩波・科学、Vol.71、2001