海外学術調査フォーラム

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    フィールドサイエンスにおける一次資料のアーカイビング――学術知デジタルライブラリの軌跡

    飯田 卓
    (国立民族学博物館)

    学術的な写真資料のデジタル化・データベース化・社会的共有化を進める人間文化研究機構のX-DiPLASプロジェクト(正式名称は「学術知デジタルライブラリの構築」国立民族学博物館拠点)およびその前身の旧DiPLASプロジェクト(大型の科研費補助金によって実施)の基本姿勢と7年間の展開について報告した。
      歴史学では、さまざまな図像資料に学術性を認めてきた。新聞錦絵や号外報道といった報道資料や、引き札やちらし、ポスターといった広告資料のほか、旅行用パンフレットや絵はがき、記念切手、記念切符、マッチ箱、包装紙など、あらゆるあらゆる印刷物に学術性が認められている。これらは時代により、版画やコロタイプ、グラビア、オフセットなどさまざまな印刷技術を駆使してはいるが、大量部数の複製を出回らせて社会的に影響を与えるという共通点がある。いっぽう、旧DiPLASやX-DiPLASが対象とする写真は、個人の手元におく目的で撮影されたものが多く、印刷物に較べると社会的価値がじゅうぶんに見いだされていないものが多い。しかし、撮影直後に特定意図のもと流通したものでなくとも、稀少であるがゆえに後の時代に高く評価される写真もある。同じアングルで写された近年の写真と比較できるなら、なおさら学術的価値が高いだろう。
      2016年に始まった旧DiPLASでは、写真の広範な共有化を念頭に、主としてフィールド研究者が撮影した写真のデジタル化・データベース化を支援してきたが、進めるうちに多くの課題に直面した。写真がはらむプライヴァシーや有名人のパブリシティ権、ローカルな祭りや秘儀の写真に備わるカルチュラルセンシティビティなどはその例である。旧DiPLASではこうした問題に対処するための基準を議論して整備し、すでに実用段階にある。2022年に始まったX-DiPLASでは、公開リスクの低い写真の公開を軌道に乗せ、ノート類や動画、音声といった多様なデジタル記録とともに写真を活用するべく検討を進める。