海外学術調査フォーラム

分科会2

講師飯田 卓(国立民族学博物館)

  本分科会には、講師1名、座長1名、参加者15名に書記1名を加えた計18名が参加し、飯田卓講師による報告「フィールドサイエンスにおける一次資料のアーカイビング―学術知デジタルライブラリの軌跡」にたいする質疑応答、議論を行った。主な論点は(1)デジタルライブラリの取り組み全般に関するものと論文等での引用方法について、(2)アノテーションについて、(3)資料の公開に関するもの、の3点である。
  (1) デジタルライブラリの取り組みについては、写真を学術的な視点のみならずフィールドの人々の視点からも捉える点が新たな取り組みとして興味深いと評価され、プロジェクトにおける具体的な支援方法(写真の整理、データベース化について)が説明された。さらにこうした資料を論文等で参照する場合、いかに記載したらよいかという質問があった。これについては、IIIF(International Image Interoperability Framework,、トリプルIF)という枠組みの下での取り組みが紹介され、写真毎に付与されたコードを辿ればオリジナル写真を特定できることが説明された。しかし報告されたプロジェクトでは未対応のため、今後検討の必要があるとのことであった。
  (2) アノテーションについては、細かく時間のかかる作業を行ううえでの工夫が紹介された。写真情報は規格化が難しく入力をシステム化するのが困難なため、撮影者が情報を入力する必要がある。そのため情報を入力しやすい状態にしてアノテーション情報として掲載に結びつけているとのことである。また、写真に写っているフィールドの様子(人々等)にたいする理解・解釈が変化することをふまえ、アーカイブ化してすぐに入力する情報(場所等)と、後から加えていく分類項目等があることも紹介された。
  (3) アーカイブ資料の公開に関しては、第一に肖像権の問題が指摘された。これについては撮影されたフィールドや時代によって人々の感じ方が変化するため、絶対的解決は困難であることが説明された。そのうえで、その時々の状況に合わせて、過去に公開していた資料の公開を取りやめることも含めて対応しているとのことである。またフィールドノートをアーカイブして公開する取り組みに関して、調査者でない人が解釈を行うようになる場合いかに問題が生じないようにしているかという質問があった。これについては基本的に特定の責任者が公開まで対応するようにし、保管場所でのみ公開していることが説明された。さらに複写については複写を希望する箇所等、個別に複写可能かを決定しているとのことである。


(報告: 河合 文(AA研))