海外学術調査フォーラム

分科会1

講師矢原徹一(九州オープンユニバーシティ)

  本分科会では、1. 生物多様性をめぐる評価者について、2. 自然科学系と人文科学系研究者の共同研究の状況、3. データ公開状況とそのメリット、デメリットなどが参加者から質問として挙がった。これに対しする矢原氏の回答の概略は以下の通りである。
  1. 生物多様性をめぐる評価者としては、国連環境計画(UNEP)によって1988年に設立された政府間組織であるIPCC (Intergovernmental Panel on Climate Change, 気候変動に関する政府間パネル)や、生物多様性と生態系サービスに関する動向を科学的に評価し、科学と政策のつながりを強化する政府間のプラットフォームとして2012年4月に設立されたIPBES(Intergovernmental Science-Policy Platform on Biodiversity and Ecosystem Services, 生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)がある。IPCCは地球全体の気候の問題を主に扱い、IPBESはグローバルおよびローカルな問題の解決を目指している。その際の評価にあたる者は、ジェンダー、専門性、出身地等のバランスをとりつつ選出され、欧米だけでなくラテンアメリカをはじめ多くの国の研究者がリーダーシップを発揮している。こうした多様性によって、生物多様性をめぐる多様な価値観を包摂し、アセスメントにおける偏りのない見解の確保が目指されている。
  2. 自然科学系研究者と人文科学計研究者の協同研究は長年の取り組みである。たとえば、森林減少の背景は、社会文化的なもの(歴史・経済・政治的な情報、cf. インドネシアにおける先住民の土地権利問題に関する知見など)を含め、多方面から考察されてきた。近年では大学院生を含む若手研究者の参加や交流が盛んになりつつある。
  3. 植物に関するデータ公開の状況について、従来、植物分野ではデータは積極的に公開されており、たとえば、分布を明らかにすることなど、広く推奨されてきた。在野の研究者による分布調査や絶滅危惧植物調査への貢献も大きく、近年では標本記録の公開データベースも充実しつつある。こうした情報公開は、情報のさらなる充実をもたらすという点でメリットが大きい。その一方で、ラン科植物などでは乱獲を助長するデメリットもみられる。後者を防ぐためのに、DNA判定による管理などが検討されている。
  本分科会では、最後に、膨大な研究成果をどのように保管し、共有していくかという点も話題になった。デジタルデータの保管にはサーバ管理など多額の費用がかかり、アーカイブ化の作業には非常な手間がかかる。これらの点が今後の課題となること、それに関してさらに知恵を出し合う必要があることが確認された。

(報告: 後藤絵美(AA研))