海外学術調査フォーラム

  • ホーム
  • next_to
  • 過去のフォーラム
  • next_to
  • 2021年度
  • next_to
  • 海外学術調査ワークショップ 講演3
  • 海外学術調査ワークショップ 講演3

    エチオピアの栽培植物に関する歴史研究を通して見た学際的共同研究の可能性

    石川博樹
    (AA研)

      報告者は1270年にエチオピア北部に成立したソロモン朝エチオピア王国の歴史を、古典エチオピア語史料とイエズス会史料を用いて研究し、博士論文を執筆した。その後他の学問分野の研究成果に触れる機会が多いというアフリカ研究の利点を活かした新たな研究を模索し、バショウ科の栽培植物エンセーテ(Ensete ventricosum)に関する研究に着手した。そして文化人類学研究者の助言を得つつ、17~18世紀のエチオピア北部関連史料に見えるエンセーテの食用利用が複数の民族移動と関連していたことを解明した。
      AA研入所後、報告者はアフリカの農業と食文化に関連する共同研究の代表・副代表を4期12年間実施するとともに、これらの共同研究から発展した科研費課題に参加した。そしてこのような研究活動の成果の1つとして、エチオピアを代表する食品とされるインジェラと、その主な原料であるイネ科の栽培植物テフ(Eragrostis tef)に関する論文を2021年に発表した。本論文において報告者は、他の学問分野の研究者からの教示を得つつ、エチオピア北部において16世紀から18世紀にかけてテフ粉パンが主食化したこと、現在のインジェラの調理方法が19世紀前半には確立されていなかったことなどを解明した。 これらの研究活動の中で、イモ類と穀類の双方が栽培可能な地域における両者の関係性に関する学際的な比較検討の必要性、植物学的特性なども含めて多角的にテフの主食化の背景を解明する必要性、インジェラを含めたエチオピアのパンを研究するうえで、比較対象地域をインド・ヨーロッパまで拡大するとともに、発酵方法についても着目して研究する必要性を認識し、新たな共同研究を構想している。