海外学術調査フォーラム

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    なぜ今エッジワークなのか?―共同研究に開かれたフィールドワークを求めて

    田中 雅一
    (国際ファッション専門職大学)

      フィールドで出会う人々と私たちとの間で交わされる雑談や対話をさらに豊かなものにし、共同研究の可能性を開くためには、1フィールドをダークコモンズとみなし、そこでの活動をエッジワークと捉えること、2 近代社会をアサイラムとみなし、オルタナティヴな空間としてアジールを想定すること、という二つの「跳躍的な認識」を提唱した。
      ダークコモンズとは、戦場、汚染、感染、大規模開発による立ち退きなどによって生まれる「死の空間」である。そこでは、今まで営まれてきた日常生活が否定される。あえてコモンズとつけることで、回復すべきものが何かを明示した。エッジワークは、ダークコモンズの周辺(エッジ=縁)で行われる、縁(えにし)を紡ぎ新しいコモンズを創出する日常実践を指す。ダークコモンズの克服には、他に政治・司法、経済・土木、さらに国家主導の追悼などが想定されるが、それらは、住民中心の新しいコモンズ創出に貢献することはない。  
      アサイラムとは、刑務所、難民キャンプ、精神病院、捕虜収容所などの「全制的施設」(ゴッフマン)のことである。これを近代社会そのものと捉えることで、私たちもまた新しいコモンズ(アジール)を求める存在として再定義される。こうしてフィールドで出会う「かれら」のエッジワークと近代社会に関する私たちの問いかけが、絡まり対立あるいは共振し、重なる。問題意識を共有することで、「かれら」について過剰な他者化を避ける共同研究が可能になるのである。