海外学術調査フォーラム

2022年度 海外学術調査フェスタ 出展者一覧

本年度はオンライン開催につき、Zoomの3つのBR(ブレークアウトルーム)にて、ポスター発表が行われました。

BR1

司会:飯塚 正人 / コメンテーター:専門委員

イラク北部ニーナワー県における多元社会の学際的将来像

研究代表者:宇波耕一(京都大学農学研究科)

発表:佐藤麻理絵*(京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科)、宇波耕一(京都大学農学研究科)、泉智揮(愛媛大学農学部)

本報告では、イラクを相手国とする2022~2023年度JSPS二国間交流事業共同研究について話題提供する。ISの侵攻により甚大な被害を受けたイラク北部ニーナワー県では、2017年に県都モースル市の奪還作戦が完了し、現在、国内避難民の帰還、近郊農村部での営農活動の正常化が進行中である。共同研究では、モースル市東部の集水域にあたるバアシ―カ(Ba’shīqa)準地区を対象地域に設定し、複雑な民族・宗派構成、気候変動に対して脆弱な農業水利といった、きわめて困難な制約条件下における多元社会の構築を模索している。予備的なアンケート調査の結果や、住民レベルで実現可能な水資源開発手法の提案について紹介する。

  

経費名:科研費・2022~2023年度JSPS二国間交流事業共同研究/宇波耕一/京都大学

 
現代アルジェリアにおけるカトリック宣教者とムスリム女性との相互流用に関する考察

発表:山本 沙希(立教大学) 

フランスによる直接的で長期的な植民地支配(1830-1962)と、1990年代から2000年代初頭に内戦を経験したアルジェリアは、イスラームを国教と定め、国民の大半をムスリムが占める。このような現代のアルジェリア社会では、かつて入植したカトリック女性宣教者の活動は、手工芸技術の手ほどきと商品化による稼得手段の創出という、女性支援の分野において展開されている。本発表では、こうしたカトリック女性宣教者の活動に関する調査結果を基に、宣教者とムスリム女性参加者とのポストコロニアルな文脈における「支配者と被支配者」または「支援者と被支援者」といった関係を再考し、自らに都合の良いように互いを利用する、両者の相互流用の様相を提示する。

「都市伝説」とリアリティ:タイで勃興した「アイ・カイ」信仰をめぐって

発表:小川絵美子(日本学術振興会 特別研究員(RPD))

数年前からタイで注目を集めている「アイ・カイ」と呼ばれる少年像がある。
ナコンシータマラート県の寺院、ワット・チェディーに祀られる彫像であり、その像に参拝したところ、投資や商売において御利益があったとの噂が相次ぎ、注目されるようになった。
もとは寺院で出現した霊を供養するために彫像されたものだといわれるが、歴史的経緯やその霊の正体ははっきりとはしていない。にも関わらず、人気と知名度が上がるに連れ、有名な高僧の弟子であったという “伝説”が添加されていったり、人々からは信ぴょう性のある対象として認識されるに至っている。都市伝説をして発生した信仰がリアリティを獲得した過程について考察する。   

経費名:特別研究員奨励費/小川絵美子/東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所

BR2

司会:近藤信彰・小倉智史 / コメンテーター:専門委員

アジア・モンスーン地域の災害論の転換によるグローバル問題の解決にむけた学際的検討

研究代表者:宮本真二

研究分担者/共同研究者:安藤和雄(京都大学)、市川昌広(高知大学)、吉野馨子(東京農業大学)、大西信弘(京都先端科学大学)、寺尾 徹(香川大学)、南出和余(神戸女学院大学)、山根悠介(常葉大学)、二田水 彩(聖路加国際大学)、浅田晴久(奈良女子大学)、赤松芳郎(京都大学)

発表:宮本真二(岡山理科大学)

<これまでの「災害論」は,即効性あるハード・技術面的なインフラの脆弱性が強調され、災害が契機となる社会問題への関心は低かった.しかし近年のアジア・モンスーン地域 の経済成長と社会インフラの遅延は,災害による甚大な被害をもたらし,当該社会の脆弱性が社会問題化しつつある.そこで本研究では,アジア・モンスーン地域で共通して認め られた『災害を「利用」するローカルな自然と人間との関係性』を再評価し,従来のハード対策中心の災害論を転換することで,罹災で顕在化した『グローバル問題(離農,過疎 )』の発生過程を抽出し,その解決にむけた『相関災害誌モデル』を提案する.そのために,①ローカルな災害の発生実態と人間の対応過程を検討し,②東南・南アジア地域と日 本との地域間比較から,災害対応の固有・関連性を議論する.研究方法は,③地域の複眼的理解のため,地理学(洪水),気象学(竜巻,サイクロン),生態学(生物多様性)から多様な災害の実態を,さらに災害対応を文化人類学(移住),地域研究(地域政策), 公衆衛生(復興)からアプローチし,世界の食料供給の重要な担い手である家族農業経営地域の離農,過疎問題について検討する.

経費名:科研費・基盤A / 宮本真二/ 岡山理科大学

感染症分野におけるNGOの果たす役割-スリランカのマラリア・衛生環境改善を例として-

研究代表者:外川昌彦 (東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

発表:佐藤惠子*(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)、佐藤秀樹(公益社団法人青年海外協力協会)、佐藤将(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)、門脇邦夫(東洋大学現代社会総合研究所)

スリランカはかつてマラリア流行国であったが、マラリア国内件数ゼロを達成し、2016年にはWHOよりマラリア撲滅国として認定されている。マラリア撲滅国となった背景には、政府によるマラリア早期発見・治療の強化や媒介蚊対策等があり、マラリア対策は保健省だけでなく多機関多分野連携で複合的・多角的に実施されている。また、政府だけでなく官民連携として民間・NGOも加わり、検査強化・蚊帳の配布・啓蒙活動を行った。マラリア対策におけるNGOの事例とコロンボ県でNGO団体が実施している活動(コミュニティベースの衛生環境改善)を事例として、感染症分野におけるNGOの果たす役割と効果的な活動に関して論じる。

経費名:科研費・基盤A/外川昌彦/東京外大 

都市の産業部門への女性労働者の参入状況の分析ーバングラデシュ首都ダカを対象として

研究代表者:鈴木亜望(神戸大学) 

発表:鈴木亜望(神戸大学)

現在、バングラデシュのジェンダーと労働をめぐる状況は、大きな転換期にある。1990年代以降、輸出向け縫製産業が発展し、パルダ(女性隔離の慣習)によって屋敷地外での行動が忌避されてきた若年未婚女性を中心に、外出が常態化し、賃金労働への参入が広まっている。もはや、「農村でパルダの内部にとどまる女性」という見方は現実的にも適用できず、急激な社会変動の中でジェンダー空間を分析する枠組みが模索されている。本発表では、急速な変化が見られる都市の産業部門に進出する女性労働者を対象に、雇用分野や働き方を分析する。それにより、ムスリム女性たちが働く意味と背景について考察する。   

経費名:科研費・研スタ/ 鈴木亜望/ 神戸大学

     

BR3

司会:椎野若菜・呉人徳司 / コメンテーター:専門委員

ベトナム紅河デルタ農村における地域住民と協働したオンライン・フィールドワークの試み

研究代表者:柳澤雅之(京都大学)

発表:小川有子

コロナ禍において、フィールドワークを主な手法とする研究の多くが停滞を余儀なくされる中、研究の継続方法の一つとしてオンラインによる新しいフィールドワークの可能性を検討した。2020年度、報告者らは渡航困難の長期化にもそなえて、ベトナム北部の調査村で1995年と2016年に撮影した村内29地点の写真を通じた、過去20年間の景観変化を比較できる日越語併記のワークブックを作成した。昨年度はこれを用いてオンラインで村人にヒアリングを実施してフィールドワーク手法の在り方を探ると共に、調査者と村人の両者による協働調査の可能性を検討した。本発表ではその準備と過程、成果と課題について報告する。

経費名:科研費・基盤B/柳澤雅之/京都大学

バングラデシュにおける山岳少数民族を巡る教育と就業:教育の先に少数民族が求めるもの

発表:田中志歩 (広島大学)

2015 年には初等教育の純就学率 97.7%を達成したバングラデシュは、現在は初等教育から高等教育までの全レベルでのバランスの取れた教育開発や、職業人へのステップが掲げられ、経済成長を支える質の高い人的資源の創出が課題となっている。そこで、本ポスター発表においては、現在も教育普及の段階で課題を抱えるバングラデシュの山岳少数民族自身が運営しているNGO学校が2020年度より取り組み始めた学校教育~職業訓練~就職を一貫してサポートする、技術者養成プロジェクトに焦点を当て、その現状と課題を明らかにし、今後、山岳少数民族が教育を受けた後にその経験をどのように人生の中で活用していくのか、そして少数民族の人々が自立した生活を送るための役割の一つを担う教育について一考察を行う。

  

経費名:日本学術振興会(DC1)

アタヤル語における「無患子」の由来について

発表:落合いずみ(帯広畜産大学)

アタヤル語(オーストロネシア語族アタヤル語群)において無患子を表す語はmasaという。アタヤル語群に属するセデック語ではbaciqという。無患子は洗剤として用いられる。両形式が同源関係にある可能性も捨てきれないが、本発表においてアタヤル語の形式はアミ語から借用された可能性が高いことを示す。アミ語で「石鹸」を表す語として収集されたbabacaという形式があり、baca「洗う」から派生されたと考えられる。このbacaがアタヤル語に借用される過程において語中のcがsに変わり、さらに語頭のbが突発的にmに変わったのだろう。これはアタヤル族が過去にアミ族と接触した可能性を示唆する。

         

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