海外学術調査フォーラム

2021年度 海外学術調査フェスタ 出展者一覧

本年度はオンライン開催につき、Zoomの5つのBR(ブレークアウトルーム)にて、ポスター発表が行われました。

BR1

司会:呉人徳司 / 会場係:倉部慶太 / コメンテーター:伊藤元己/三浦英樹/蓮井和久(発表者)

GISによる国際関係の可視化の試み:日本のODAデータを題材として

発表:佐藤将(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)、門脇邦夫(東洋大学・現代社会総合研究所)

国際関係を議論する上で、研究者間で共通した空間認識が存在せず、その枠組み構築が求められる。また国家間での安全保障を議論する際に陸域と海域情報の統合の重要性が指摘されているが、社会経済データの統合化は複雑な政治問題を含むため、統合を可能にする分析モデルの構築も併せて求められる。以上の課題を踏まえて、本発表では日本のODA金額データを題材に国家間関係の地図化による数量的把握の手法を紹介する。分析手法として①ローカル・モラン統計量を用いて,国家間関係の空間集積の可視化を行う。また②海洋国境を有する国家間関係の可視化を行い、陸域のみでは不可能であった島嶼国への分析可能性についても検証を行った。

アタヤル語の「サトウキビ」に起きた特異な音韻変化

発表:落合いずみ (室蘭工業大学) 

アタヤル語(オーストロネシア語族アタヤル語族)の「サトウキビ」はbilusという形式であり、一見するとオーストロネシア祖語の形式*Cebus(eはシュワー)に遡らないかに思われる。ただし、このような特殊な形式を持つに至ったのは、アタヤル語に特有の音韻変化である、接中辞の語中子音直後への挿入が起こったためである(ただし、この接中辞の機能は不明)。アタヤル語群祖語*Cibusに対し、接中辞が語中子音bの直後に挿入されCibusとなり、さらに語頭音節が脱落してbilusとなった。この特異な音韻変化は、同じくアタヤル語群に属するもうひとつの言語、セデック語には起こらなかった。そのため、セデック語は祖語を反映したsibusという形式を保持している。

ヒト乳癌の病理疫学的研究の新たな戦略

発表:蓮井和久*、王嘉(大連医科大学)、原博満(鹿児島大学)

ヒト癌の遺伝子パネル検索が開始され、癌免疫からの癌細胞逃避の解析が進められている。この分子・遺伝子病理時代には、ヒト癌を病理疫学的に研究するには、新たなストラテジーが必要になる。大連医科大学乳腺外科の王嘉准教授とヒト乳癌の共同研究を行える環境が整ってきたので、ヒト乳癌の病理疫学的学術調査の新たなストラテジーを立案した。そのストラテジーは、変異ドライバー遺伝子、遺伝性乳癌で異常が見られる抑制遺伝子、ホルモン依存性を支えるアロマターゼの発現と、癌発生の客観的指標と過剰な遺伝子異常でアポトーシスを誘導するp53等を、癌と前癌病変と過形成病変で検索するものであり、諸氏のご意見を伺いたい。

BR2

司会:近藤信彰 / 会場係:熊倉和歌子 / コメンテーター:鈴木紀

研究資源の共有と持続可能性の追究 ——オンライン・データベースDatabase of Historical Monuments in Islamic Cairoの制作を通じて

研究代表者:深見奈緒子(JSPSカイロ研究連絡センター)

研究分担者/共同研究者:熊倉和歌子(AA研)、中村覚(東京大学史料編纂所)、吉村武典(大東文化大学)、宍戸克実(鹿児島県立短期大学)

発表:熊倉和歌子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)*、 深見奈緒子(JSPSカイロ研究連絡センター)、中村覚(東京大学史料編纂所)、佐藤将(AA研)、吉村武典(大東文化大学)、宍戸克実(鹿児島県立短期大学)

研究者によって収集された各種データの権利は、基本的には個人に帰属するため、研究者の引退や死去により、それらの再利用は困難になる。データを継承し、研究資源として発展的に再利用していくための枠組みの構築は、現在多くの研究者が直面している課題である。本報告は、研究を通じて収集・蓄積された画像データを研究資源として共有し、将来にわたって広く研究に活用できる方法の一つとして、カイロ(エジプト)のイスラーム建築を収録したオンライン・データベースの制作と公開のとりくみを紹介する。また、本報告を通じ、本ポスターをご覧になられた方たちと課題の共有ができることを願っている。

経費名:IRC プロジェクト経費(2020年度、2021年度)

関連URL: https://islamic-architecture.aa-ken.jp/

長期定点農村調査における研究活動の継承とデータの共有-1990年代以降のベトナム・バッコック研究の事例から

研究代表者:澁谷由紀(東京大学附属図書館)

発表:澁谷由紀*、藤倉哲郎(愛知県立大学)、小川有子(東京理科大学)

バッコック研究はベトナム北部を調査地とする共同農村研究プロジェクトである。同研究では、1994年以来、村落に関する文献・口述資料が収集されるとともに、1995年以来五次にわたり悉皆調査が行われてきた。現在は、過去約27年間で蓄積されたデータの中長期分析が可能になっている。しかしながら現在は、個人情報に対する意識の高まりや就労形態の変化により、社会調査の実施に多くの困難が伴う状況が生まれている。本報告では、同時代または異世代の共同研究者の間でどのようにデータを共有し継承するべきかという問題や、研究者と調査地がどのようにデータを共有すべきかという問題について近年の検討結果を報告する。

経費名:1. U-PARL協働型アジア研究 / 澁谷由紀, 2.科研費・基盤B一般 /柳澤雅之/京都大学 

近世ペルシア語文化圏における芸術・詩芸・宗教の関係

研究代表者:神田 唯(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所) 

発表:神田 惟

本研究の目的は、詩芸の才能が価値として共有された16~18 世紀のイラン、インド、トランスオクシアナ(近世ペルシャ語文化圏)における芸術、詩芸、宗教の緊密な関係の諸相を解明することである。具体的には、当該時代・地域において流通した、詩芸に習熟した作り手の関与が明らかな美術品について、美術品それ自体に施されたテクストとイメージを解読・分析し、多種多様なジャンルの同時代文献史料を渉猟して得た情報と照合することで、その制作地や制作背景を明らかにする。 本報告では、6月時点における研究の進捗と今後の展望を示し、フィールドワークが困難な時代における美術史学研究のあり方の一端を示す。

経費名:日本学術振興会特別研究員奨励費

     

BR3

司会:西井凉子 / 会場係:河合文 / コメンテーター:田所聖志

現代タイにおける暦学的卜占をめぐる文化人類学的研究

研究代表者:小川絵美子(日本学術振興会特別研究員RPD)

発表:小川絵美子

タイは仏教国として知られているが、仏教徒を自認する人々が織りなす社会生活には、非仏教的な要素が多くみられる。いわゆる占星術と呼ばれる暦学的卜占もそのひとつであり、様々な日常の局面にみられる。新型コロナウイルス感染症の流行、反政府運動の広がりという、現在のタイ社会情勢の変化のなかで、不安な心の拠り所となったり、匿名性の高い民衆の団結に活用されたりといった、人々の卜占を含む呪術的要素との関わりに新しい事象が観察されている。これらの事例から、呪術的要素の現代的な展開には、国家権力に裏打ちされたものとしての「宗教(仏教)」との親和性と異同が関わっていることが見えてきた。

経費名:特別研究員奨励費

スリランカの人々の防蚊行動とデング熱

研究代表者:外川昌彦(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)       

発表:佐藤惠子 (東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

スリランカのマラリアとデング熱を比較し、蚊媒介性感染症の発生や伝播の要因を検討する。スリランカでかつて猛威を振るっていたマラリアは国内感染ゼロを達成し、2016年にWHOより撲滅国として認定された。一方、デング熱は増加の一途をたどっている。2つの蚊媒介性感染症の感染状況の背景には何があるのか。スリランカでは、現在蚊帳や蚊取り線香等夜間吸血性の蚊に適した行動をとる人が多く、その行動はマラリア対策に合致している。今後は、デング熱のような昼間吸血性の蚊を意識した防蚊行動の促進やそのための教育活動等も重要と考えている。感染症を「人」を中心とした視点から分析し、分野横断的に研究する。

経費名:科研費・基盤A/外川昌彦/東京外大,科研費・基盤A/西井凉子/東京外大

南アジア系ムスリム家族の家事分担に関するパイロット調査

研究代表者:外川昌彦、西井凉子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)       

発表:工藤昭子(国際武道大学)

コロナ禍で改めて家族の関係、絆、そして家族レジリエンスを支援するソーシャルワーク的アプローチが重要になってきた。家族支援の中核にあるのは家族をシステムと捉え、家族メンバーと支援者も環境システムの構成員であり互いに影響を与え合っているという家族システム理論である。家庭の権力と平等を考えるとき、賃金労働・家事・お金の組織化は夫婦間の交渉の結果とみなすことができる(Finch, 1989)。アーネ&ロマーン (2001)は家事分担についての調査を参照し、本調査では南アジア系のバングラデシュ人のムスリム女性を対象に、「社交場に参加するのに条件があるか」という質問も加え、インタビューしたパイロットスタディの結果と考察を発表する。

経費名:科研費番号19H00554・基盤A「現代南アジアにおけるムスリム社会の多極化の傾向ーテロとツーリズム」研究代表者外川昌彦

         

BR4

司会:飯塚正人 / 会場係:後藤絵美 / コメンテーター:藤田耕史

肥沃な三日月地帯における雨水ハーベスティングの新たなパラダイム

研究代表者:宇波耕一   

研究分担者/共同研究者:AbuZreig Majed (鳥取大学)、泉 智揮(愛媛大学)、真常 仁志(京都大学)、竹内 潤一郎(京都大学)

発表:宇波耕一*(京都大学)、泉 智揮、真常 仁志、竹内 潤一郎

雨水ハーベスティング(RWH)とは,比較的小規模なスケールにおいて,自然の降水を生物生産に変換する過程である。2014-2018年度の科研費基盤研究A(海外学術調査)では,塩性乾燥環境下にあるヨルダン地溝帯の死海沿岸部にRWHシステムを実際に構築して研究を行った。2019年度からは,科研費国際共同研究強化(B)により,対象地域をステップ気候下のヨルダン高地や北部イラクのニネベ平原へ拡張し,「肥沃な三日月地帯」の多様な環境下におけるRWHの可能性を探っている。本ポスター発表では,RWH過程の物理的なモデル化や,旱魃リスクの評価と回避などに関する,分野横断的な新たなパラダイムについて紹介する。

経費名:科研費・国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B)) / 宇波耕一 / 京都大学

中東地域における「熱」循環ー衣・食・住・農領域からの考察ー

研究代表者:佐藤麻理絵(京都大学)

発表:後藤真実(東京外国語大学)*、佐藤麻理絵、實野雅太(東京農業大学)、西川優花(日本貿易振興機構アジア経済研究所)

本研究は、2019年から開始したNIHU基幹研究プロジェクト「現代中東地域研究」の若手共同研究事業「“熱”からみる自然資源利用の知と実践―中東・ユーラシア乾燥地をフィールドに」の活動内容を紹介するものである。本研究は、中東地域における「熱」に着目し、同地域の文化や生業における「熱」利用や実践から、その循環の過程を明らかにすることを目的としている。本発表では、特にイラン、湾岸アラブ諸国、ヨルダンを事例に、人間生活にとっての三大要素である衣・食・住と、これに深く関わる農業の分野において、現地の様々な「熱」の捉え方、利用方法を先行研究を中心に考察し、今後の展望とともに提示する。

経費名:人間文化研究機構(NIHU)基幹研究プロジェクト「現代中東地域研究」若手共同研究事業「“熱”からみる自然資源利用の知と実践―中東・ユーラシア乾燥地をフィールドに」/佐藤麻理絵/秋田大学国際資源学部

エチオピア北部におけるインジェラの成立に関する歴史学研究

研究代表者:藤本 武 (富山大学)

研究分担者/共同研究者:石山 俊 (国立民族学博物館)藤岡 悠一郎 九州大学、小松 かおり(北海学園大学)、佐藤 靖明(大阪産業大学)、石川 博樹(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

発表:石川 博樹

インジェラ(Injera)は、主にイネ科の作物テフ(Eragrostis tef)を原料としてつくられる酸味のあるパンケーキ状の食品であり、しばしばエチオピアを代表する料理と呼ばれる。先行研究では、インジェラが6世紀頃からつくられていた可能性が指摘されるとともに、17世紀前半にエチオピア高原で布教活動にあたったイエズス会士たちの記録に見えるアパ(apa)という食品はインジェラであったと解釈されている。本発表では、17世紀から19世紀にかけての各種史料に見えるテフ粉を原料とするパン・パンケーキに関する記述を検討することにより、インジェラが18世紀後半に成立したという説を提示する。

経費名:科研費・基盤B/藤本武/富山大学

    

BR5

司会:椎野若菜 / 会場係:安達真弓 / コメンテーター:小林知

アフリカの女子割礼(FC)・女性器切除(FGM/C)とローカル社会の多様性

研究代表者:宮脇幸生(大阪府立大学)

研究分担者/共同研究者: 戸田真紀子(京都女子大学)、宮地歌織(佐賀大学)、中村香子(東洋大学)

発表:宮脇幸生、戸田真紀子、中村香子、宮地歌織、アブディン・モハメド(東洋大学/参天製薬株式会社)、林愛美(大阪府立大学/明治大学)*

女子割礼(Female Circumcision)または女性器切除(Female Genital Mutilation/Cutting)は、女性器の一部または全部を傷つけたり切除したりする慣習を指し、中東やアフリカを中心に、西アジアや南アジアの一部でおこなわれている。この慣習は女性の心身に影響を与えることから、1970年代から国際社会で廃絶運動が開始され、1990年代以降は法規制が進んだ。
 しかしながら、一括りにFGM/Cといっても切除の形態も実施する年齢もその状況も様々である。そのため本研究課題では、東アフリカをフィールドとする研究者らがローカル社会の人びとが社会やFGM/Cをめぐる変化をどのように受け止め、FGM/Cをいかに位置付けているかを研究するとともに、望ましい廃絶方法について考察してきた。本発表ではその成果を報告する。

経費名:科学研究費助成事業挑戦的研究(萌芽)「『女性性器切除』廃絶の学際的研究―『ゼロ・トレランス』から『順応的ガバナンス』へ」

関連URL: https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-18K18541/

アフリカの村落における高齢者のケアと健康:人口動態サーベイを活用した人類学・国際保健学・人口学の混合アプローチ

研究代表者:増田研(長崎大学)

研究分担者/共同研究者:波佐間 逸博 (長崎大学)、 林玲子(国立社会保障・人口問題研究所)、野口晴子(早稲田大学)、堀井聡子(富山県立大学)、宮本真二(岡山理科大学)、宮地歌織(佐賀大学)、山本秀樹(帝京大学)、田川 玄 (広島市立大学)

発表:*増田研、林玲子、野口晴子、堀井聡子、宮本真二、宮地歌織、吉野龍史(長崎大学)、山本秀樹

サハラ以南アフリカにおける60歳以上人口比率はいまだ5%に留まるが、長寿化の進行にともない(1)高齢化率の上昇、(2)高齢者の健康課題、(3)社会的保護といった課題が重要性を増すことは明らかである。このプロジェクトでは2013年からこの課題に取り組み始め、アフリカ各地の研究者とのネットワークを作るとともに、ケニア農村部における人口動態サーベイを活用した現地調査の準備を進めてきた。現時点では倫理申請と調査許可の取得に努めているが、2021年中には5000人〜1万人規模の住民を対象とした規模の大きい調査を実施し、アプローチの異なる複数分野を統合した学際的取り組みの事例としたい。

経費名:科学研究費助成金 基盤(A)「東アフリカにおける未来の人口高齢化を見据えた福祉とケア空間の学際的探求」研究課題番号:18H03604(代表:増田 研、長崎大学)

関連URL: http://global-ageing.org/

  
ザンジバルの割礼儀礼に関する予備的報告

発表:古本 真(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

Jandoと呼ばれる男子割礼儀礼がタンザニアの海岸部で行われている(あるいは行われていた)ことは、それなりに知られており、それに関する報告や論考もいくつかなされている。同様の儀礼がザンジバルで執り行われていたことについても記述が残されているが、その詳細に関しては不明な点も多い。本発表では、スワヒリ語諸方言の記述研究を目的としたフィールド調査の合間に発表者が収集した語りのデータから、ザンジバルのJandoがどのような儀式であったかについて考察する。


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