海外学術調査フォーラム

ワークショップ講師との個別質疑 BR3

講師河合 香吏(AA研)

 本ブレイクアウトルームでは、講師1名、参加者計7名、会場係1名の9名が参加し、ワークショップにおける河合香吏講師の報告にたいする質疑応答と議論を行った。以下ワークショップの概要と分科会における議論を記す。  ワークショップにおける報告は、講師が代表を務める科学研究費補助金・基盤研究(S)「社会性の起原と進化:人類学と霊長類学の協働に基づく人類進化理論の新開拓」について行われた。研究課題は地域・文化・種を超えた比較研究をとおして「社会性」の起原と進化を探究するものであり、フィールド系学問の霊長類学と人類学の協働に基づく。様々な地域に暮らすヒトやニホンザル、オナガザル、ゴリラ、チンパンジーといった霊長類を対象とし、フィールドにおける「現場性」と「全体性」を捉えるためにエスノグラフィーの視点と方法をもちいることが発表された。また、「社会性」を利他性や協力行動、向社会性のみに限定せずに探究を行うが、学際的協働によって異なる対象を比較分析するために、データ収集にかんする調査手法の開拓や、分析・考察のための用語と概念の整理といったことを方法論研究会にて進めるということも報告された。 報告について分科会では、人類学的な研究内容に踏み込んだ議論から言語学と関連する議論、そして方法論にかんする議論という主に3点について質疑応答と議論が交わされた。 1点目の議論は利他行動にかんするものである。ヒト以外の霊長類にも利他行動がみられること、また種によって差異があることが講師より説明され、人類学における「食物分配」との関連が議論された。そして価値のあるモノが人の間を動くことを「分配」と捉えることが多いが、人は与えるのではなく手放すことができる存在だという見方があることなどが論じられた。 また社会性と言語接触という観点からの議論も行われた。これが2点目である。言語接触について考える際に集団が他集団とどのように関係を築くかに着眼すると、大規模な言語集団が小規模集団にたいして優位な関係を築く場合と、集団規模が集団間の優劣関係に影響しない場合があることが議論された。ヒトは必ずしも他者を自らの側に取り込もうとするのではなく、他者を前提として存在することにも言及された。 そして3点目は方法論研究会にかんするものである。コロナ禍でフィールド調査を実施するのが困難な状況で、どのように理論的・方法論的研究を進めているかについて質問があり、異分野で協働して研究を展開するために整理を進めている概念や「個体追跡法」といった調査法について説明があった。


(報告: 河合 文(AA研))