海外学術調査フォーラム

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    先史考古学の海外調査―学際新領域へのチャレンジ

    近藤 康久
    (人間文化研究機構 総合地球環境学研究所)

    講演3

     先史考古学の海外学術調査について、学際新領域へのチャレンジという視座から、全体の動向(総論)と講演者自身の経験(各論)のメタ分析を試みた。

     まず全体の動向として、KAKENデータベースから予算の推移をひもとくと、1998年度から2017年度までの20か年度においては、年度あたりの新規採択件数22.4件、採択年度あたりの直接経費総額は約4億円であり、2000年度前後までは増加傾向、その後は年によって高下する。経費総額の高下は、大型種目の採択と関連しており、2008年度以降の科研費新学術領域(研究領域提案型)人文・社会系においては、採択課題14件中8件(57%)が、考古学に関係の深い研究者を領域代表者とする。このことは、考古学が伝統的に総合科学・データサイエンス・チームサイエンスを特徴としてきたことと関係する。

     考古学の学際共同研究は、文化人類学や古環境学など隣接分野との協働が成否の鍵を握るが、分野ごとに現象のとらえ方や研究上の価値観が異なるので注意が必要である。例えば、新学術領域「パレオアジア文化史学」の班員52人を対象としたアンケート調査では、「環境」「文化」など領域の中心概念に対する理解が、分野間で異なることが明らかになった。また、総合地球環境学研究所の気候適応史プロジェクトでは、岡山平野における弥生・古墳時代の集落の移転を説明する際に、気候学の研究者は広域の気候変動、考古学の研究者は局地的な洪水と社会組織の変化(首長権力の増大)を重視するなど、分野における研究思想のちがいが現象の解釈のちがいをもたらすことが明らかになった。

     講演の後半では、講演者が中東のオマーンで足かけ10年間にわたり行なってきた遺跡調査について紹介した。更新世の気候変動の中で、現生人類ホモ・サピエンスがアフリカを出てユーラシアに拡散する際に、アラビアのどこをいつ通ったのか、という問題に取り組むために、現在はオマーン内陸部のワディ・タヌーフにおいて、考古学と古環境学の研究者が連携して調査を進めている。調査団長の仕事は学術調査を円滑に進めるための「兵站」(ロジスティクス)であり、現地政府当局との折衝や住民・有力者との対話だけでなく、物資調達や輸送など、多方面への気配りが必要になる。調査を続けてこられたのは、チームメンバーや現地作業員、担当行政官など様々な人たちの協力・助力のおかげであり、資金面では科研費のおかげであるが、科研費に採択されなかった時には民間財団の研究助成に援助されたことも忘れてはならない。