海外学術調査フォーラム

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    農業経済学と海外調査―科研およびJICAプロジェクトを中心に

    藤田 幸一
    (京都大学東南アジア地域研究研究所)

    講演2

     農業経済学および隣接分野における海外調査に基づく研究の方法論を中心に、共同研究のあり方、研究と実践、「地域」を横断するような地域研究の可能性などについて、幅広く、問いかけを行うような議論を行った。

     第1に、農業経済学分野の海外調査は、満鉄による調査を先駆けとし、それがアジア経済研究所に引き継がれ、現在まで脈々と続いている。そういう歴史の中で、速水佑次郎と菊池眞夫によるフィリピン、インドネシア(ジャワ)における調査研究は、日本人の得意とする精緻な現地調査を、西欧近代(特に「近代経済学」)の土俵でまとめ上げ、世界に発信した、一大財産である。現地(地域)のローカルな文脈と理論との微妙な関係を、高度なレベルで融合して、史的発展径路の上に、ヴィヴィッドに地域の経済社会の構造と変動を伝え、かつディシプリンの理論的発展にも貢献するような研究の方法は、現在も、変わらず求められるものではないだろうか。

     第2に、研究を実践(ないし政策)に結び付ける際のポイントについては、経済学が方法論的個人主義に立っているため、過度に「家計」の行動に注目することになってはしまいか。家計行動の経済分析から導出された政策的課題を提言するのは容易であるが、政策主体である政府や中間組織などが万能であるわけではない。政府や中間組織の経済行動やその際の制約条件も十分に分析対象とし、それを踏まえた提言をしたり、実践に結び付けたりする必要があろう。

     第3に、以上、地域研究の立場からディシプリンのあり方に対する問題提起をしてきたが、逆に地域研究のインヴォリューション傾向も気になっている。地域研究は、言語に基礎を置いて行われる傾向が強いのは当然であるが、それが過度に強調されると、狭い地域内に閉じこもって「仲間」うちだけで議論する落とし穴にはまることにもなる。地域の固有性に対する「こだわり」を保持したまま、もっと広い地域的文脈の中でモノを考えることはできないだろうか。1つの方法論的可能性としては、一度地域研究者が自分の地域を離れ、より広い政策・実践課題(ないし実証課題)を共有し、異なる地域の地域研究者が集まり、互いの地域を訪問しあって、議論をするといったことであろうか。共有し、取り上げるべき課題によって、どういうまとまりのある地域を設定するかは、柔軟に決めればよい。昨今、大学等の研究者が研究に割ける時間がますます少なくなる中で、何とか、そういう時間と余裕をもつことができないであろうか。そういう仕組みを作り上げる雰囲気を、文科省はじめ周囲がもっと醸成できないだろうか。